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2013-10-11 07:16
中韓との首脳会談は我慢比べ、先に動く必要なし
杉浦 正章
政治評論家
外務省が水面下で展開してきたアヒルの水かきは実現に至らず、首脳会談は日中も日韓も当分棚上げの流れとなった。アジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジアサミット(EAS)を通じて鮮明化したのは、これ見よがしの中韓蜜月路線の継続と南沙諸島・尖閣諸島をめぐる中国と周辺諸国のあつれきの深さだ。明らかに中国の対日強硬路線を反映して駐米中国大使が、反日プロパガンダを開始、日本の神経を逆なでする発言をしてみせた。しかし、一方で中韓との経済、文化面での交流は進展の兆しを見せている。当分極東情勢は「政経分離」のまま推移せざるをえず、首相・安倍晋三は首脳会談など焦る必要は無い。駐米中国大使・崔天凱の発言は、国家主席・習近平がオバマとの会談で指摘し、首相・李克強がポツダムで強調した中国の荒唐無稽な“歴史認識”と同一基調である。まさに統一された対日国家戦略と位置づけられるべきものだろう。内容は、連合国によるポツダム宣言を軸に戦後の体制は確立され、中国はこれに大きく貢献しており、この原点に戻って、敗者である日本に対して連合国が共同歩調を取ろうと米欧諸国に呼びかける戦略だ。李克強が5月にわざわざドイツ・ポツダムまで行って、「日本は中国から盗み取った領土を返還しなければならない」と傍若無人な尖閣の領有権を主張したが、崔天凱も根拠を同じにしている。「日本は、最新の武器ではなく、アジアと欧米諸国の人々の強い意思と決意によって敗れた。日本の政治家は戦後の国際秩序を理解すべきで、これに挑戦することはできない」と言明した。明らかに“連合国”に戻ろうと主張しているのだ。
安倍を名指しこそしないが、日本の政治家が戦後の国際秩序に挑戦していると宣伝することで、尖閣諸島を巡る対立でも中国側の独自の主張が正しいとするプロパガンダが、戦略として確立されているのだ。日米関係にもこれでくさびを打てると考えているのである。しかし「日本軍の無条件降伏」等を求めたポツダム宣言は、1945年、米国大統領・トルーマン、イギリス首相・チャーチルと中華民国国民政府主席・蒋介石の共同声明として発表されたものである。中国共産党政権が成立したのは1949年であり、得々としてポツダム宣言を言える立場にない。「戦後の国際秩序」と言うが、「戦後の国際秩序」は、自由主義と国際共産主義の対決の結果、共産主義の敗北によって出来た秩序であり、共産党一党独裁にしがみつく政権幹部の言うことではない。さらに日本は戦後の世界平和への貢献度は世界随一と言ってよく、逆に中国は朝鮮戦争に参戦し、ベトナムとの紛争、中ソ国境紛争と、何度も戦争を繰り返し、今度は海洋に進出して南沙諸島と尖閣諸島を奪うべく軍事攻勢を強める好戦的な国家ではないか。戦後一度も戦争をしていない国である日本に対する批判を形容すれば「盗っ人猛々しい」が一番似合う。
このように連合国体制への回帰を主張する、中国の戦略は根本的に間違っており、国際的な説得力に欠ける。同調する欧米諸国はない。尖閣諸島に至っては、日清戦争後の台湾割譲以前に日本が閣議決定で沖縄県に編入したものであり、石油資源の埋蔵を知って1968年に領有権を主張し始めた中国には、国際法上の発言権などもともとない。しかし、今後中国は、日本がポツダム宣言を受諾した以上、尖閣も台湾の付属島嶼として返還されるべきだという虚偽の論法で、折に触れてプロパガンダを繰り返すのは火を見るより明らかだ。その背景は、習近平体制が確立しておらず、国内の不満を日本に向けるという稚拙な政治しかとれない習近平の政治能力の問題に帰結する。これは朴槿恵も同様で、まれに見る厳しい経済情勢に対処する能力に欠け、反日しか“売り”がないのである。
東南アジアの国際会議で見せた習・朴蜜月はいわば「同病相憐れむ」型のものである。こうして一連の国際外交で露呈したのは「日米とフィリピンなど南沙諸島関連国」対「中韓」の構図である。習近平は韓国がなければ孤立する構図であった。安倍が10月10日の東アジアサミット(EAS)で李克強を前にして中国の海洋進出に対して「国際法を順守して、一方的な行動を慎むべきだ」と強調したのは、場所といい、タイミングといい絶好の対中宣伝作戦であった。李克強は「紛争当事国でない国は関与すべきでない」と切り返したが、会議の空気は安倍支持であった。米国はオバマが出席しなかったものの、国務長官・ケリーがフィリピン大統領・アキノの発言を支持するなど、総じて中国の海洋進出をけん制する姿勢が目立った。こうして内政の脆弱性から対日関係改善に踏み切れず、見当違いの対日戦略理論に固まってしまった中国は、当分日中首脳会談に踏み切ることができないまま、尖閣での日本の譲歩を待つ構えが鮮明となった。安倍は、靖国参拝などで波風を立てる必要は無いが、中韓が自らの内部矛盾に「ゆでカエル」になって飛び出すまで待つのも、一興かも知れない。ここは我慢比べの場面であり、先に動く必要も理由も無い。歴史的な日米「2+2」で確認した、対中戦略を堅持し、プロパガンダには事実にもとずく反論で応じてゆけば良い。中韓の米国におけるロビー活動は今後活発化しこそすれ、衰える気配はない。「倍返し」の“ロビー戦”に体制を整えて参入する必要がある。
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