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2013-09-18 07:04
思考停止の朝日の集団的自衛権論
杉浦 正章
政治評論家
朝日新聞が「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の開催に合わせて9月17日、集団的自衛権の行使容認に真っ向から反対する社説を打ち出した。一方、首相・安倍晋三は行使容認に事実上踏み切っている。左傾化する民主党代表・海江田万里は右派を無視するかのように反対に傾斜し始めている。この結果集団的自衛権の問題は、規模は小さいが1960年の安保改定論議に類似した左右の対決軸が構成されつつある。安保闘争との決定的な違いは、朝日の構築した反対の理論武装が、最初から破たんしていることだ。旧態依然の安保観を墨守し、緊迫した極東情勢の変化に思考停止状態を続けているのである。何と集団的自衛権の行使は「日米同盟に亀裂を生む」と主張する“破天荒”さだ。海江田や公明党代表・山口那津男がいくら朝日の社説を勉強して理論武装しようとしても、無理があることをこれから証明する。
まず質はともかく量だけは多い社説を大きく俯瞰すれば、現在日本が直面する国の安全保障環境に対する認識が根本から欠けていることだ。そこには北朝鮮が日本の都市を名指しして核ミサイル発射のどう喝をし、自衛隊艦船や航空機に射撃管制用レーダーを照射した中国が、今度は攻撃型無人機まで尖閣諸島近辺に向かわせている緊迫感など全くない。ただただ安倍政権を「戦後日本の基本方針の大転換であり、平和主義からの逸脱である」と批判する事だけが目標の論調だ。極東情勢の変化に目をつぶらなければ論理構築が不可能であることが、これに続く論理展開で分かる。社説は「自衛隊は今日まで海外で一人の戦死者も出さず、他国民を殺すこともなかった。9条による制約があったからだ」と主張するが、それを許した環境があったことを無視している。東西冷戦の谷間で日本は出る幕はなく、近年の戦争は遠くベトナムや中東で行われた。ところが今回の場合は極東のしかも好戦的な隣国が、どう喝を繰り返すという事態である。自衛隊員の戦死者どころか国民の戦災死が出かねない状況下である。首相・安倍晋三が法制墾冒頭で「いかなる憲法解釈も、国民の生存や存立を犠牲にするような帰結となってはならない」と言わざるを得ない情勢なのである。朝日のお得意の一国平和主義が通用しない状況なのだ。
さらに社説は「安倍政権は内閣法制局長官を交代させ、一部の有識者が議論を主導し、一片の政府見解で解釈改憲に踏み切ろうとしている」と切りつけている。これも、大きな論理の飛躍がある。自民党は2度にわたる国政選挙で党の公約に集団的自衛権行使を掲げている。その結果は衆院294議席、参院65議席の圧勝なのである。原発再稼働とともに集団的自衛権問題は朝日が完敗して、自民党が勝ったのだ。その国民の審判を棚上げにした論理の展開はまさに唯我独尊としか言いようがない。社説は、具体論に入って、「一緒に活動中の米艦の防護は、自国を守る個別的自衛権の範囲で対応できるとの見方がある。ミサイル防衛の例にいたっては、いまの技術力では現実離れした想定だ」と指摘している。反対論者の多くが「個別的自衛権で十分対応できる」ことを反対論の寄りどころとしている。個別的自衛権とは自国に対する他国からの武力攻撃に対して、自国を防衛するために必要な武力を行使する、国際法上の権利を言う。しかし戦争というのは何でもありである。在日米軍基地が攻撃されない事態や日本の領土が攻撃されていない状態での戦争突入は十分あり得る。机上の空論では「ないとしている」のであって、世界の戦史を見れば十分すぎるほど事例はある。ミサイル防衛が「現実離れしている」と言うが、命中の確率は日進月歩で上がっており、実用の範囲内だ。北から米本土に行くミサイルを「迎撃できない」というが、これも空論だ。将来艦船に搭載するようになったら北はどこからでも撃てる。中国も弾道ミサイル潜水艦である094型原子力潜水艦を運用しており、とっくに太平洋上のどこからでも発射できる態勢を整えている。
社説は、こともあろうに「性急に解釈変更を進めれば、近隣国との一層の関係悪化を招きかねない。そんなことは米国も望んでいまい。米国が何より重視するのは、中国を含む東アジアの安定だ。日本が中国との緊張をいたずらにあおるようなことをすれば、逆に日米同盟に亀裂を生む恐れすらある」と、はちゃめちゃな論理を展開して、1人“佳境”に入っている。「一層の関係悪化路線」を進めるのは中国と北朝鮮なのであって、日本から軍事圧力を仕掛けたことなどただの一度もない。「米国は望んでいない」と言うが、社説子は、一部学者の主張をうのみにして、日日のニュースすら読んでいないのか。9月5日のオバマとの会談で安倍が集団的自衛権行使の方針に言及し、オバマが歓迎の意を伝えているではないか。山口が「集団的自衛権つぶしができないか」と、米国に行ったものの、国防長官首席補佐官・リッパートは「日本が集団的自衛権の行使を解禁し、国際社会でより積極的な役割を果たすことを、米政府は歓迎する方向だ」と明言しているではないか。「日米同盟に亀裂が入る」に至っては、まさに噴飯物だ。国防予算の削減は米国の極東戦略に日本の軍事力を組み入れざるを得ない状況となってきており、安倍の方針はまさに渡りに船なのである。中国と米国の関係を経済関係だけで見るのは甘い。中国の著しい台頭とその海洋進出は米国にとって最重要な安保戦略の対象にならざるを得ないのだ。このように野党や左翼の理論的な支柱である朝日の論調が、容易に論破できる矛盾と撞着に満ちあふれているのである。野党は臨時国会に向けて同社説を根拠に追及することはあきらめた方がいい。レベルが低すぎるのだ。別の資料で勉強し直せ。
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