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2013-07-17 06:58
参院発「長期萎縮」に「ねじれ解消」は不可欠
杉浦 正章
政治評論家
通常国会会期末に、朝日も、その対極の産経も、社説で「こんな参院いらない」と書いた。衆参ねじれが巻き起こした国会の体たらくを批判してのことである。しかし参院選挙でそのねじれが解消しそうになると、朝日は社説で「ねじれの解消で、国会運営はスムーズに運ぶようになるかもしれない。反面、与党が暴走しても、これを止めるのは難しくなる。しかも、この与党優位の態勢が少なくとも3年続くという見方もある」と口惜しげだ。7月17日付の社説でも「ねじれは問題か」とぶつぶつ論旨のさだまらぬご託を並べている。最近こうした論調を真似してか、民放コメンテーターや、評論家らが、しきりに「ねじれの方がいい」と言いだした。「衆院に対する抑制が利く」のだそうだ。しかし、そんなことは中学校の教科書に書いてあるので、言っても決して偉くないのだ。低レベルのコメンテーターには理解の範囲を超えるのだろう。問題は、参院が憲法の想定する「良識の府」であるかどうかなのだ。むしろ民主党によって政権抗争のための「陰謀の府」とされてしまったことにすべての原因がある。その中心人物が参院議員会長・輿石東だ。
もともと憲法はねじれを想定した上で二院制にした。参院が大所高所から衆院の独走にブレーキをかける存在と位置づけたかったからだ。戦後は緑風会に代表される良識派が主導権を握っていたが、米ソ冷戦に伴う自民党と社会党の対立激化によって政党化が進み、衆院と変わらぬ対立構造となった。長期自民党政権の衰退もあって、時の政権を作る衆院と逆の政治構造が参院に生まれ、これをねじれと称するようになった。最近では1989年の参院選で橋本内閣時代がねじれたのが始まりである。その後1998年の小渕政権、2007年の安倍政権、2010年の菅政権、2012年の安倍政権と4回にわたりねじれになるケースが生じた。ねじれの最大の弊害は大胆な政策が打ち出せず、政治が萎縮する傾向を伴うことである。1989年以来の四半世紀はねじれがもたらす萎縮の時代であった。官僚の間では「何を出しても通らないからやめとこう」が合い言葉のようになって定着し、戦後の日本を支えた意欲あふれる行政が停滞、事なかれ主義が横行した。官僚を押さえ込んでリーダーシップを発揮する政治家も存在しなくなった。この国政の萎縮が、国民にも伝搬して、陰うつな空気が日本を覆った。とりわけ2007年以降のねじれは質の悪いねじれであった。民主党が政権奪取の手段としてねじれをフルに活用し始めたのだ。その旗振り役の先頭に立ったのが輿石だ。これもまた悪役の権化小沢一郎と手を組んで、2008年には日銀総裁人事にクレームを付けた。日銀総裁人事は戦後はじめてたなざらしとなり、首相・福田康夫は結局退陣に追い込まれた。
この“成功”に味を占めて民主党はことあるごとに、参院を政権揺さぶりのとりでとして自民党政権を追及、ついに政権交代へと追い込んだのである。輿石は民主党内で英雄的存在にのし上がり、「参院のドン」として権勢をふるうようになった。そして政権が自民党に代わってからも、輿石は生活代表となった小沢と連携をとりつつ、政権揺さぶりに参院をフル活用した。通常国会終盤にはこの姿が全容を現した。まず民主党が賛成して成立させた定数是正法に基づく衆院の区割り法案を、採決をしないまま長期にたなざらしにして、結局自民党が衆院における3分の2の多数で成立させざるを得ない状況に追い込んだ。さらに悪質なのは、参議院外務委員長・川口順子に対する問責決議可決だ。訪中した川口は日本の国益を代表して尖閣列島の領有権を会議で主張するために帰国が一日遅れたが、これがけしからんとして問責で解任した。極めつけは安倍への問責決議を小沢と手を組んで成立させたことだ。だれがみても問責に値するようなことはやっていない時の首相の存在を、参院として否認したのだ。いずれも横暴かつ理不尽なる参院の突出である。さすがの朝日もこれには怒った。社説で「民主党をはじめとする野党は、判断を誤ったとしかいいようがない。国会は、国の唯一の立法機関と憲法にある。それなのに、国民の生活や未来にかかわる法律づくりよりも、政争にうつつを抜かす。そんな参院ならば、もういらない」と切って捨てたのだ。
朝日は、脱原発につながる電事法改正案の廃案になったことが悔しいのだ。朝日は、脱原発につながらないことはすべて怒るのだ。これだけ解説すれば、中学の教科書で教わったことを金科玉条にするコメンテーターや、自民党アレルギーの評論家の“スジ論”がいかに荒唐無稽なものかが分かるだろう。参院は良識の府どころか、怪僧ラスプーチン率いる陰謀の巣窟と化していたのである。ようやくアベノミクスを掲げて安倍が日本の「参院発長期萎縮」にけりを付けようとしており、これに国民がもろ手を挙げて支持しようとしているのは当然だ。「自民党の独裁政権になる」との選挙妨害じみた批判まで登場するが、戦後の自民党政権時代に独裁政権が生まれたか。むしろ社会、共産両党の目指す社会主義1党独裁政権を辛うじて食い止めたのが実態だ。米国など先進諸国にもねじれはあるが、政党が一院を政権奪取のための野望に使う国は皆無だ。米国でも大統領のイニシアティブが議会制度に埋め込まれていることや、議会での審議を通じて合意形成を図るという志向性が政権政党と野党の間で共有されており、ねじれ状態が審議の混乱に直結しにくい構造だ。このレベルに参院が達するには、まずねじれを解消させ、陰謀の府から離脱させることが決定的に重要なのだ。
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