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2013-07-11 07:01
共産の「躍進」は一過性の“漁夫の利”
杉浦 正章
政治評論家
1970年代に自民党副総裁・川島正次郎が唱えて、単なる幻想に終わった「自・共対決の時代」が到来するのだろうか。都議選で民主党を抜く第3位。参院選でも選挙区で12年ぶりに議席を獲得することが確実。確かに同党の規模から言えば「躍進」といえる傾向が目立つが、政治の潮流として定着するかと言えば、しないだろう。投票率低迷と、毛嫌いされている民主党と、第3極の馬脚露呈がもたらした“相対性選挙原理”による一時的現象だ。漁夫の利で伸びているだけだ。まさに自民党旋風だ。勢いが止まらぬまま投票に突っ込むだろう。この結果自公での過半数突破は確実。日本の政治にとっての悪夢の時代であった「衆参ねじれ」は解消される。自民党は単独で70議席をうかがい、場合によっては単独過半数の72議席も夢ではない状況が生じている。ひとえに3年3か月の民主党政権の体たらくに対する、国民の“怨念”が総選挙を経てもまだおさまらないことが原因である。その民主党は44議席から半減以下の10議席台への転落も、これまた「夢ではない」状況だ。維新もやっと化けの皮がはげて低迷。第三極は維新とみんなの共食いで見る影もない。みんなの党代表・渡辺喜美は「みんなの選挙は終盤に尻上がりでぐんと伸びるのが傾向」とまだ強がっているが、人生あきらめが肝心だ。
こうした中で気勢を上げているのが、野党では共産党だけだ。東京、京都で優位に立ち、神奈川、大阪で滑り込みセーフの感じ。選挙区では01年以来12年ぶりの議席の獲得が確実だ。5議席はいくかも知れない。比例区も3議席は確実で合計10議席も「夢ではない」。一体どうしてこうなったのであろうか。都議選でも躍進している。議席を8から17に倍増させ、民主党を抜いて第3党に躍進した。「自・共対決」と自民党をフルに活用したキャッチフレーズが効を奏した結果だ。その「自・共対決」だが、川島が予測したのは、冷戦や泥沼のベトナム戦争と米国の敗北など共産主義イデオロギーの最後の閃光(せんこう)を背景としている。議席数では問題にならなかったが、一定の訴求力がある見通しであった。しかし、ソ連邦の衰退、1989年のベルリンの壁崩壊に至って、この「自・共対決」などという構図は潰え去った。
現在再び共産党が唱えだした主張には、こうした時代背景などは全く存在しない。単なる選挙戦術の側面が濃厚だ。強い政党に対して、そのすべてを否定するアンチテーゼが議席となって現れているのに過ぎない。なぜ奏功するかと言えば、反自民党の受け皿がないからである。まず民主党が毛虫のように嫌われて、中道への信頼もなくなった。勢い安倍右傾化政権と最左翼の共産党の対立の構図が目立つようになった。共産党はアベノミクスにも原発再稼働にも何でも反対だから、一定の層には通用しやすい主張だ。一定の層とは、もちろん共産主義者ではなく、浮動票でもない層だ。数の上では多くはないが、政治には関心が強く、棄権はしない。自民党と聞いただけでじんましんが出るといった有権者だ。この層はこれまで民主党に投票してきたが、誰が見てもダメ政党では、投票先がない。面白かった維新も軽蔑すべき存在となった。従って投票に行くとすれば共産党ということになる。
この層の存在が働いた理由は、低迷した投票率だ。都議選の投票率は43.5%に過ぎず、前回の54.49%から10%以上も下落し、戦後2番目の低さだった。この結果、低投票率の中で共産党の相対的得票率が高まったのだ。アインシュタインではないが“相対性選挙原理”が働いたのだ。共産党都議の半数が最下位を争っての当選であったことも、この傾向を物語っている。参院選はどうかというと、これも戦後まれに見る低投票率となりそうである。大阪と神奈川で最下位争いで当選しそうなのも似ている。食われているのは民主党であり、神奈川では共産候補が民主党支持層の8割を固めたと言われている。このように皮相的に見れば、「自・共対決時代」とか「政治の左右分極化」といった表現が可能となるが、長く定着する流れにはなるまい。今の共産党は、躍進自民のアンチテーゼとしての存在でしかない。しかし、首相・安倍晋三はまさに今が花の盛りであり、今後は徐々に散ってゆく運命をたどる。歴代政権をつぶしてきた消費税の引き上げが来年、再来年と2回連続で行われる。安倍人気は、まだ消費税を引き上げていないから維持されているのであって、いったん引き上げればほぼ確定的に政局と連動する。1回目は逃れても、2回目は相当きついだろう。これを契機に野党は息を吹き返すだろう。野党間の離合再編も進むことが予想される。流れは中道新党の糾合を目指す可能性もある。そうした中で共産党が現在のような漁夫の利を維持できる可能性は少ないのだ。従って共産党の一見「躍進」風に見える流れは、一過性であろう。
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