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2013-07-10 16:19
米露協調を頓挫させたシリア問題
川上 高司
拓殖大学教授
シリアの内戦はますます混迷を深めつつある。イランは、革命軍4,000人をシリアへ送る予定だ。アメリカは300人の海兵隊をヨルダンへ送った。その上シリア政府が化学兵器を使用したとして反政府軍のシリア自由軍(SFA)へ武器の支援をすると発表した。さらにサウジアラビアは対空ミサイルを反政府軍へ供給するつもりである。シリア内戦は周辺国や外国がこのような介入をするためますます長引いている。最前線の兵士は外国からの支援がなければ戦闘は「10日で終わる」と断言した。支援があれば10年でも戦えるというのだ。
シリア国際会議もケリー国務長官とロシアのラブロフ外相が共同開催を宣言したものの反政府軍側が出席を拒否しているため開催の目処すら立っていない。今回北アイルランドで開催されたG8でもシリア問題は重要な議題だった。だが、終わってみれば米露の溝は埋まらず、「シリア国際会議開催に向けて協力していく」という確認をし、「政治的解決だけがシリアを救う」という点で一致しただけに終わっている。ロシアのプーチン大統領がアサド体制の支援において一歩も譲らなかったからである。もちろんアサド政権の維持についても断固として辞任を容認しなかった。今回プーチン大統領は妥協の余地のない強い姿勢でシリア問題に臨み、西側諸国は押されっぱなしだった。
武器支援の根拠としてオバマ大統領は化学兵器の使用を主張したが、ロシア側は「根拠が薄い」と一蹴している。ロシアだけでなく多くの国がイラク戦争開戦前を忘れてはいない。当時のパウエル国務長官は国連の場で、試験管をふりかざして「これがフセインが化学兵器を所有している証拠だ」と述べた。その証拠が確固たる証拠でなかったことはその後の10年に及ぶ戦争が証明している。その再現ではないか、と各国が危惧しても不思議ではない。あまりにも状況が似ているのだ。アメリカ国民も忘れてはいない。ピューリサーチセンターの世論調査では70%が武器支援に反対している。米軍もイラクから撤退しアフガンからの撤退もようやくゴールが見えてきた今、再び中東で終わりのない軍事行動を始めることには後ろ向きである。
今回のG8ではこのようにプーチン大統領がシリア問題で孤立したという見方ができる。だが逆に見ればイラク戦争で英米の暴走を止められなかったロシアが今回はブレーキをかけることができたということであり、オバマ大統領も踏まれたブレーキの効きを感じとったということでありこれは大きな意味がある。ロシアはシリア問題で孤立したがアメリカはロシアに耳を傾けた。やはりシリア解決には米露の協力以外に鍵はない。
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