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2013-07-08 06:58
集団的自衛権反対でボルテージ挙げる公明
杉浦 正章
政治評論家
自公で過半数という参院選予想の強まりに正比例するかのように公明党代表・山口那津男のボルテージが上がっている。首相・安倍晋三の安保政策の1丁目1番地である集団的自衛権の行使についても「断固反対」と言い切った。その発言を聞くと、昔公明党が社会党並みに左傾化していたころを思い出す。これでは選挙後に連立が維持できるかどうか危ぶまれるが、そこは政権の蜜の味を知ってしまった政党。本心は自民党以上に政権にしがみつきたいのだ。そのための“妥協の布石”を各所にちりばめているように見える。公明党ほど、よく言えば「現実的な妥協政党」、悪く言えば「節操欠如政党」は珍しい。戦後の日本の政党は立党の基盤を日米安保条約の是非に置いてきた。公明党も結党以来一貫して「段階的解消」、「早期解消」を主張。1974年には「即時解消」にまで至ったが、81年党大会では一転して、「日米安保条約容認」を表明した。国会運営でもころころ変わる方針は枚挙にいとまがない。最近の公明党は、そのやり口が狡猾(こうかつ)になってきた。その最たるものが憲法改正について「加憲」なる、“言葉遊び”に等しい造語で対処しようとしていることだ。加憲とは、現行憲法は「いい憲法であり、そのままにする」(山口)として、条文を書き加えようというのだ。例えば制定の時には思想そのものがなかった「環境権」の問題を付け加えるという。しかしこの方式は矛盾撞着だらけだ。
改憲の焦点9条を例に取れば、山口は「書き加えるとすれば3項だ。自衛隊の国際貢献の任務を書くか、自衛隊をいかに位置づけるかだ」と述べている。しかし現在の改憲論は「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」とする9条2項と、紛れもなく戦力である自衛隊の存在とが大矛盾を発生させて生じている側面が大きい。これをそのままにして3項を書き加えれば、ますます矛盾は拡大するとしか思えない。子どもでも「うそつき憲法」と批判できる。公明党が妥協のためには荒唐無稽な構想をも主張する証左である。だいたい国民を「加憲」などという言葉で欺いてはいけない。本質は改憲に他ならないからだ。改憲の要件を衆参総議員の3分の2から2分の1に緩和する96条改正についても、最初は棒を飲んだように反対する姿勢だったが、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の憲法3原則を3分の2にすれば、後は柔軟に対処する方針であるという。これも安倍との“激突”は回避したいという思いの表れであろう。そこで「断固反対」の集団的自衛権の行使だが、山口は「政府は長年集団的自衛権を認めてこなかった。これを変える必要は直ちには無い」と強調した。しかし、この発言ほど極東情勢の現実を認識していない例は珍しい。中国が公船を次々に領海内に押し出し、北朝鮮が狂ったように核開発と弾道ミサイル製造に専念しているときに、何もしないで丸腰でいろというに等しい。ひとたび有事となれば、国家間は「何でもあり」の戦いとなる。集団的自衛権の行使などはあり得ないと言うこと自体が机上の空論の最たるものとなる。中途半端なインテリの「平和は天から降ってくる」という議論そのままだ。
しかし、山口発言にも巧妙かつ隠された“妥協案”があるような気がする。それは「我が国の領土領空領海での武力行使を認められているのが個別的自衛権だが、集団的自衛権はその外、海外での武力行使を認めようとする考えだ」と強調して、「海外」と条件を付けたことだ。恐らく山口の念頭には、中東などにまで自衛隊が米軍に追随して、共同作戦を展開することへの懸念があるのだろう。もともと日米安保条約はその適用範囲を極東としており、国会答弁ではその極東の範囲を「大体においてフィリピン以北、日本及びその周辺地域」と定義している。この「周辺地域」には、韓国及び台湾も含まれると解釈されている。尖閣諸島も含まれることは当然だ。公明党は安保条約を認めているわけであるから、山口は気づかないであろうが、「極東」における日米共同の武力行使を認めることになる。安保条約はもともと集団的自衛権行使を前提にしているのだから、「断固反対」などとは言っていられないはずだ。だから「極東」の範囲に限定した集団的自衛権行使の解釈が公明党説得材料になり得るのだ。
首相・安倍晋三は「極東」有事の際を想定すれば、恐らく改憲による集団的自衛権行使などとは言っていられない事態に至る可能性が高い。改憲では時間がかかりすぎるのだ。頻発するであろう中国の“挑発”は、集団的自衛権行使を憲法解釈で対処せざるを得なくなるかもしれない。首相の決断でできることであり、国連憲章で認められた当然の権利を行使するだけのことだ。既に第1次安倍内閣で安倍の諮問機関「安全保障の法的基盤再構築に関する懇談会」が集団的自衛権行使を答申しているが、病気退陣で前進していない。同懇談会は秋にもまた同様の答申を出す予定であり、自民党の新防衛計画の大綱に向けた提言と相まって、集団的自衛権を解釈によって保有することが選択肢として急浮上する可能性がある。山口は「そうした際に連立を離脱するのか」と民法テレビで問い詰められて、即答を避け「そのときは自民党を説得する」と苦し紛れの発言をした。7日のNHKでも「この一点で連立政権を破壊することは、国民の期待にかなうことではない。連立を維持しながら、いろいろ相談していくことは十分可能だ」と妥協の可能性に言及した。要するに、公明党にはお家芸がある。それは一夜にして言ったことを理由を付けて大転換させることだ。
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