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2013-07-03 12:27
キッシンジャーの愛弟子が語るシリア情勢解決の道
川上 高司
拓殖大学教授
湾岸戦争の直前、私は創設されたばかりの中曽根総理の研究所(世界平和研究所)で駆け出しの研究員をしていた。そこでの最初の仕事がヘンリー・キッシンジャー国務長官のアテンドだった。朝、キッシンジャーとホテル・オークラの最上階の特別室で午後からの中曽根総理との会議の打ち合わせを行っていた。その時に電話が鳴り、キッシンジャーが受話器をとり嬉しそうに「Congratulations!」と誰かと話していた。彼の愛弟子のブレント・スコウクロフトからだった。父ブッシュ大統領がスコウクロフトを大統領国家安全保障担当補佐官に任命したことをキッシンジャーにいの一番に報告してきたのだ。
今年6月にスイスでシリアを巡って国際会議が開かれた。提唱したのはケリー国務長官とロシアのラブロフ外相だった。オバマ第1期目では外交関係が良好とは言い難かった両国が、一転して協調姿勢を見せている。このケリー国務長官の取り組みは是非このまま継続してほしい、アメリカにとっての最重要課題はロシアと協力することだと、元国家安全保障担当補佐官のブレント・スコウクロフトは、ウォールストリートジャーナルのインタビューに答えた。
スコウクロフトは、米露の取り組みに対しても明確なゴールを示した。それはただ「闘いを終わらせること」だった。「アサド大統領をシリアから追い出したところで闘いが終わるわけではない。これ以上犠牲を出さないようにしなければならない」。だが、スコウクロフトをもってしても、停戦のためになにをしたらいいのかは状況が複雑すぎてわからないという。言えることは軍事力による解決ではなく、外交でしか解決できないということだ。それにはロシアとアメリカが協力する必要がある。だが、そのロシアもまだ欧米への不信感が残っているという。欧米諸国はリビアで反政府勢力を支援し最終的には軍事介入によって政権を転覆した。その実績があるゆえにロシアにしてみればシリアでもやりかねないという不信感につながっているのだ。だからアメリカはシリアの政権転覆を目標としているのではないと言い続けなくてはならない。
スコウクロフトはかつて父ブッシュ政権時代に国家安全保障担当補佐官を務めた。そして、彼の下にいたのが元国防長官のロバート・ゲイツである。湾岸戦争では、イラクのフセインを政権転覆までは追い詰めなかった。2003年のブッシュ政権によるイラク侵攻の際には、戦争反対の論文を発表して侵攻を食い止めようと尽力した。そして今、アメリカの強硬派がシリアへの軍事介入を叫ぶ中、介入反対を主張している。スコウクロフトは「政権転覆が平和をもたらすことはない」という強い信念を20年以上も貫いている。リアリズムを国際政治に持ち込んだキッシンジャーの弟子もその教えを守り、現在も冷徹な現実主義者を貫徹している。
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