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2013-06-04 05:55
中国のTPP参加に反対する
杉浦 正章
政治評論家
6月7日からの米中首脳会談に向けて中国がしきりと融和ムードを演出し始めた。狙いは習近平の国家主席就任以来最重要の首脳会談への地ならしである。外交・内政で何ら成果を上げていない習近平にとって、首脳会談の成功は今後の政権安定に不可欠の重要ポイントとなる。融和演出の一つは、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の可能性をほのめかしていることだ。経済重視のオバマにとっても、極東の緊張緩和と中国との互恵的経済関係の確立は、極めて重要である。しかし、オバマは独走的に中国のTPP参加を認めるべきではない。「レアアース禁輸」を指摘するまでもなく、政治戦略のために貿易秩序を平気で破壊する国家である。その参加は、自由貿易主義の理想に180度背馳(はいち)し、米国の極東戦略にくさびを打つものに他ならない。首相・安倍晋三も3日反対姿勢を鮮明にさせた。今回の米中首脳会談ほど、日本が絡む問題は珍しい。会談のテーマには尖閣問題を避けて通ることはあり得ないからだ。加えて、日米による中国封じ込めの意味合いを持つTPPへの中国参加問題は、米国の極東戦略そのものの大転換につながる要素を持つ。
中国商務省の沈丹陽報道官は30日 、同省のウェブサイト上で「中国は慎重な研究および平等と相互利益の原則に基づいて」交渉への参加の是非と可能性を分析するとの方針を明らかにした。中国のこれまでの態度は共産党機関紙・人民日報が2月に「米国が日本をTPPに取り込もうとしているのは、アジア太平洋地域における中国の影響力を抑制するためだ」と日本の参加を強くけん制しており、まさに180度の転換とも言える。俗に言えば、図々しいことをよく言うものである。中国は、2010年に発生した尖閣諸島中国漁船衝突事件後に、レアアースの日本への通関を意図的に遅滞させる事で、事実上の対日禁輸措置に踏み切っている。この「中国危機」で苦汁をなめた日本企業は、中国への依存度を減らし、逆にレアアースの価格は暴落する結果を招いた。TPP交渉は参加国間の貿易・投資の障壁を除去することが第一の目的であり、自国の外交・安保路線を露骨に反映すべきでない事は、イロハのイだ。
さすがに安倍も、3日の記者会見で 「TPPは開かれた協定であり、いかなる国においてもTPPの要求する高い水準を満たす用意があり、正式に参加表明する場合は、TPP参加国が判断することになると思う」と発言した。「高い水準の用意」とは、とても中国がそのレベルに達していないことを言わんとしたものであり、明らかにに中国の参加には今後反対していく姿勢であろう。中国の転換は、TPP参加で日米協調の極東戦略にくさびを打ち込むことに狙いがあることは間違いない。問題は、対中経済関係改善を重視し、国務長官に親中派のケリーを据えたオバマがどう反応するかである。ここは間違っても前向きの発言をすべきでないことを、米国にクギを刺しておく場面である。安倍は外務省または在米大使館を通じて早急に反対の方針を米国に鮮明化しておく必要がある。一方、尖閣問題で中国人民解放軍幹部が尖閣諸島の領有権について、1972年の日中国交正常化の際に、問題を棚上げすることで日本と中国双方が了解していると主張した。官房長官・菅義偉が直ちに反論しているが、狙いは対日関係にはない。米中首脳会談への布石だ。中国の得意とする変幻自在の融和策である。
尖閣問題がどのような話になるかだが、オバマは日米安保条約の“しがらみ”で、中国が軍事行動に出て日中軍事衝突となれば、介入せざるを得ない場面に追い込まれている。何とかこの窮地を脱したいというのが本音であり、習近平に対して“自制”を求めることは間違いあるまい。首脳会談は恐らく2人だけの場面が設定されるものとみられ、ここで機微に渡る問題は話し合われ、外部にその詳細は発表されないだろう。オバマがカリブ、中米3国を訪問する習近平に招待をしたことが会談実現の経緯とされている。しかし習の方も、3国歴訪を“おとり”に使って、米国の招請を導き出した可能性が高いと見る。あうんの呼吸での首脳会談であろう。オバマは、中国のサイバー攻撃にクギを刺す場面もあるだろうが、招請しておいて会談を失敗に持ち込むようなことはあり得ない。戦時でなく平時の首脳会談の「定理」は常に成功することなのである。したがって違いは際立たせずに、協調が前面に出る会談となるだろう。大局から見れば極東の緊張緩和にとってプラスに作用することは間違いない。
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