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2013-04-12 10:43
日本には「米国モデル」当てはまらず
田村 秀男
ジャーナリスト
大胆な金融緩和を掲げる黒田東彦日銀総裁体制がスタートした。「量的緩和=通貨安」というわけで、円安に誘発されて日本株買いが同時進行する可能性が高い。だが、このままマーケット主導の脱デフレ、景気拡大は可能だろうか。まず、史上最高値を記録している米国はどうか。米国では株式保有者の数が野球ファンよりも多いだけあって、株価が上がれば、個人消費も上向く。民間設備投資となると、株価のアップダウンとほぼ同じ波動で呼応する。株式市場が活気づけば、企業は増資や新規株式公開(IPO)により、低コストの資本を用意できる。その資金を設備投資に振り向ける。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が量的緩和による株価の上昇を重視するのは、実体経済への波及効果の大きさを意識しているからなのだ。しかも、バーナンキ議長は念には念を入れて、名目金利がインフレ率を下回る実質ベースでのマイナス金利政策をとっている。特に企業の投資行動に影響する長期金利を大幅に下げるために、量的緩和政策を通じて長期国債を重点的に買い上げ、長期の実質金利をマイナス水準にまで押し下げている。投資家は国債など低利回りの金融商品よりも、売買益が見込める株式に投資するので、株価上昇にはずみがつく。
株式が引っ張る米国モデルはしかし、日本に当てはまるとはかぎらない。円安に伴う株高は企業の資金調達コストを押し下げて設備投資を増やすし、個人投資家の気分を高揚させ、個人消費を刺激するに違いない、と思いたい。確かにデパートでは高額商品が売れ出したと聞く。だが、円安を受けて2007年6月に日経平均株価が1万8000円台まで上昇し続けた期間、個人消費は低迷を続けたし、民間設備投資の回復は1年弱にとどまった。日本の個人消費も設備投資も株価とは全く無縁であるかのように、低水準で推移し続けている。15年デフレ、あるいはバブル崩壊後の20数年間もの空白と株価の低迷で、4500万人の個人株主の大半は株価が多少上がっても、すぐさま消費を増やす行動には出ないのだろう。また、大企業は手元流動性が潤沢なうえに、デフレに慣らされて設備投資意欲が薄らいでいる。
日本が2年程度で脱デフレと景気拡大の軌道に乗せるためには、マーケットは明らかに力不足だ。その限界を考慮すればアベノミクス第2、第3の矢である財政政策と成長戦略の重要性は高い。成長戦略のコアは規制緩和だが、効果は長期的で、短期的にはむしろ混乱要因になりうる。財政面では、金融緩和と合わせた財政出動の効果は高いが、財源上の制約から公共投資の増額規模は限られる。ならば、デフレ効果が大きい消費増税の実施を延期し、財政・金融の両輪による脱デフレの勢いを持続させる。安倍晋三首相の決断が待たれる。
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