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2013-03-15 19:11
円安と脱デフレは結びつくか
田村 秀男
ジャーナリスト
次期日銀総裁に指名された黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁は衆院議院運営委員会で、「2年ぐらいで2%の物価上昇率目標を達成することを念頭に大胆に金融緩和していく」と所信を述べた。そこで気になるのは、物価上昇を実現する手段である。手っ取り早いやり方は何か。多くの読者は「円安」と思われるかもしれないが、難点がある。円安は確かに輸入原材料のコストを上昇させ、食料品から工業製品に至るまで、値上げ要因になる。現に最近の円安傾向を受けて、一部の業種の企業が値上げを発表している。
しかし、需要が細るデフレの下で企業がとる典型的なやり方は、値段を据え置く代わりに製品1個当たりの分量を減らす「コーナー・カッティング(端切り)」である。これだと小売価格は同じに見えるが、消費者の負担が実質的に増える。あるいは、値上げは無理だとあきらめた企業は賃金や雇用を減らしたり、下請けなど外注先に負担を強いて、コスト上昇分を吸収する。こうして統計上、消費者物価は上がらないが、消費量は減るので、生産は縮小し、雇用と賃金が減る。供給能力に対する需要の不足が広がるのでデフレ圧力が高まる。円安では所得も増えないのだ。
そう、円安頼みだけでは脱デフレの達成は困難かもしれない。デフレが始まった1998年以降の円相場をみると99年12月から2002年初めと、04年11月から07年夏まで2度の円安局面があった。きっかけはいずれも日銀のゼロ金利政策である。米国との短期金利の差が開き、円売り、ドル買いが広がった。最初の局面は、円の対ドル相場は102円台から133円台に、2度目は103円台から123円台まで下がった。期間はいずれも2年を超している。ところが、国際標準のインフレ指数であるエネルギーと食料品を除くコアコアCPI(消費者物価指数)は下がり続け、08年9月の「リーマン・ショック」後の超円高で、デフレに加速がかかった。
では、どうすべきか。早い話、日銀は「マイナス金利」政策に転換すべきだ。現在、日銀は金融機関が日銀から供給を受ける資金に0.1%の金利を付けているが、その金利をマイナスにすればよい。銀行は日銀での当座預金で寝かしていれば、金利をとられるので、一般向け貸し出し増に駆り立てられるだろう。黒田氏が強調するように、大胆な量的緩和政策も金利低下を促進すれば効き目がよくなる。物価上昇率がプラスに転じても、日銀が長期国債の大量購入を続けると、長期国債の利回りが下がり、名目金利からインフレ率を差し引いた実質長期金利がマイナスになりうる。すると、銀行は企業の設備投資資金貸しに前向きになる。米連邦準備制度理事会(FRB)は最近、長期国債の実質利回りをマイナス水準に誘導している。日本にとっては「異次元」の金融政策でも世界では常態化している。
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