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2013-01-28 06:58
尖閣は日中で30年かけて「研究」せよ
杉浦 正章
政治評論家
公明党代表・山口那津男の訪中は、1972年の田中角栄による日中国交正常化に先立つ同党委員長・竹入義勝の訪中を彷彿(ほうふつ)とさせる。竹入は復交に突破口を開き、山口は日中危機に打開の糸口を見出した。「共に井戸を掘った人を忘れない」中国の、公明党重視の現れだ。これを“活用”した田中に似て、首相・安倍晋三もフットワークは軽妙なものがある。今後は視野に入った日中首脳会談に向けて、共産党総書記・習近平が「ここに至る環境を整えることが重要」と述べている通り、数々の難関を通り越えなければならない。現在の日中間には「対話」 そのものが必要なのであり、まず政府はその対話を粘り強く、忍耐強く、たとえ30年間でも持続させる必要がある。その中で、尖閣問題は「研究」対象にする方向で“妥協”することが望ましい。竹入は98年に朝日新聞に寄せた回顧録で「周恩来首相との秘密会談で一番驚いたのは、賠償放棄の申し出であった」と述べている。野党党首としては戦後まれに見る重要な外交努力であったことを物語る。また周恩来が「田中さんに恥をかかせませんから、安心して中国に来てください」と田中訪中の受け入れを表明したことも明らかにした。
一方、41年後、尖閣を巡る偶発戦争も予感される中での山口との会談で習近平は、安倍の親書を受け取って「2006年の第1次安倍内閣の時に中日関係の改善、発展に積極的な貢献をしたことを高く評価している。再び首相になられ、新たな貢献を期待している」と述べた。また安倍が中国政府と確認した「戦略的互恵関係」について「推進したい」と関係改善に意欲を見せた。習は明らかに野田政権と安倍政権を分けた対応を示したのだ。これにより日中関係は「戦略的互恵関係」の原点に向けて回帰の一歩を踏み出したことになる。この中国側の対応には、国内経済、対米、対東南アジア外交を見据えた習の戦略上の選択が感知される。野田の尖閣国有化で内外に向けて拳を振り上げたものの、これを“そろり”と降ろさざるを得なくなったのだ。第1の背景に経済上の問題がある。下がり続けている国内総生産(GDP)が13年ぶりに8%を下回った。危機ゾーンとされる6%を上回らなければ、中国経済は構造的に成り立たないとされている。尖閣を巡る暴動で極めて厳しい状況に追い込まれている。日本には打撃であったが、それに劣らぬ打撃を被ったのだ。対米関係も、中国にとって、クリントンの「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」発言は予想外の強さであり、日米安保体制の固さを感じ取ったのだ。領空・領海侵犯を繰り返した事実上の「軍事偵察」も、日米連携の強さを認識せざるを得なかったのであろう。
同時に、米国は中国に対しても外交ルートを通じて「対話」の必要を促していた。さらに安倍政権の東南アジア外交は成功裏に展開し、南シナ海で中国の海洋進出にさらされる国々と日本の連携は一層の深まりを見せた。また習にしてみれば、国有化を断行した野田が続いていれば関係改善は困難であったであろうが、安倍政権の実現は渡りに船であった。その安倍は、筆者が前々から明らかにしているように、駐日大使・程永華と首相就任前から秘密裏に会談、対中対話に向けた水面下の動きを展開した。これが山口訪中の下準備として奏功したことは言うまでもない。中国側は、メディアの挑発的な報道を抑制するように新聞・テレビなど報道機関に指示している。“軟化”を象徴させる動きだ。今後の日中対話の焦点は、尖閣を巡る話し合いをどのような形で実現させるかだ。尖閣問題はいくら日本が「領土問題は存在しない」という立場を変えなくても、何らかの対話を実現させるしか選択肢はないのが現状だ。「存在しない」と「存在する」の180度の違いを埋めてゆかざるを得ない状況になりつつあるのだ。ここは知恵の出しどころだ。日本の実効支配を前提として、話し合いの接点を探るにはどうすればよいかだ。かつて日米間には「日米貿易経済合同委員会」があった。年に1度首相や閣僚が相互訪問して大局を話し合う場だ。そのために事務当局が懸案事項を事前調整して積み上げた。これと同様に日中間にも「日中外交・経済合同委員会」を設置して、大局を話し合うべきではないか。その大局協議の中で尖閣問題を取り上げればよいのだ。
もちろん普段の接触は下部機関が行い、積み上げる。尖閣は日本が実効支配しているが、外交上の懸案としては間違いなく存在している。その事務レベル外交協議の中で尖閣問題は「研究」すればよい。国際政治の駆け引きではなく、純粋学術的に研究するのだ。冒頭掲げたように、30年かけても、半世紀かけても、研究をし続けるのだ。もちろん日本による実効支配の構図は変えない。前防衛相・森本敏が「自衛隊は尖閣の実効支配を確実なものにする態勢はとっている。そこは全く心配いらない」と述べている。自衛隊は中国軍の侵攻を想定したあらゆる事態に即応する態勢を確立しているといわれる。普段は公船や航空機が侵入すれば排除し続ける状態を維持し、戦略上絶対に挑発や先制攻撃は避ける。この態勢を話し合いが続く限り維持するのだ。つまり30年でも半世紀でも忍耐強く続けるのだ。問題の決着は日本がより繁栄して国力を維持できるか、衰退路線を辿るかによっても決まってくる。また中国共産党独裁体制が崩壊して、価値観を共有する民主主義政権が誕生するかによっても左右される。問題を歴史の判断に委ねるのだ。その意味で共産党対外連絡部長・王家瑞が山口に「今の指導者に知恵がなく解決できないとすれば、後々の世代に解決を託すということもある」と述べたのは傾聴に値する。大局において鄧小平の判断と同じだからだ。
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