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2013-01-15 06:59
安倍が橋本を“だし”につかったその内幕
杉浦 正章
政治評論家
一体どうして最初の野党首脳とのトップ会談に、日本維新の会代表代行・橋下徹をもってきたのかふに落ちなかったが、ようやく解けた。大阪の読売テレビのニュースキャスター辛坊治郎が来阪の目的は同テレビの収録にあり、その他の日程は“ついで”であったと暴露したのだ。「1ローカルテレビのために総理大臣たるものの来阪は体裁が悪すぎる」ので、橋下との会談を設定して、それが目的であるかのように装ったのだという。結果的に他党党首をないがしろにした形となり永田町の憶測を呼んだのだが、何のことはない格好づけであったのだ。しかし、内幕をばらされるとは、内閣官房の誰が作った筋書きか知らないが、上手の手から水が漏れてしまってはどうしようもない。首相官邸の情報操作は巧みであった。まず1月8日に「安倍が橋下と11日に会談する」方針を新聞にリークし、9日の朝刊に「夏の参院選に向けて野党共闘にくさびを打ち込む狙いだ」と書かせた。同日の記者会見で官房長官・菅義偉が、日程を追認する形を取った。こうして流れを作ったのは、記者クラブへの情報操作を知り尽くしたプロの技だろう。その上での会談となった。日本維新の会代表・石原慎太郎や民主党代表・海江田万里は“無視”されたかたちである。評論家らは「石原代表の面子がつぶれる。頭越しで、しかも首相自ら出かけていくということは、普通じゃ考えられないことをあえてやった。相当な意味がある。」(岩見隆夫)と“見事”な論評をテレビで加えるものがほとんどだった。
新聞も読売が「首相維新に期待、通常国会での連携狙い」と分析し、社説でも取り上げ、「首相は憲法改正など国政課題での連携に意欲を示してきた。それを具体化するための一歩とも言える」と高揚した論調。朝日も「参院選に向けた野党共闘にくさびを打つとともに、将来の憲法改正を見据えて距離を縮める狙い」ともっともらしく分析した。タブロイド紙に至っては、まことしやかに「石原慎太郎外しの思惑」と“深読み”した。官邸もここまでは巧みな情報操作であったと言ってあげよう。ところが、これに対して辛抱が、まるで辛抱しきれなくなったかのように「待った」をかけたのだ。12日の日本放送の「辛坊治郎ズーム」で内情を暴露したのだ。ラジオなど普通の人は聞き流すが、読者のためにラジオまで聞いている“政治ニュースの鬼”である拙者の耳に入っては、ひとたまりもない。だから、ここに“辛抱の暴露”を暴露することができるのだ。まず辛抱は「何のために大阪に来たのかの基本認識が、朝日も毎日も産経も日経も全部間違った」と主張した。読売だけは外したところなどは、辛抱でも“主筋”は怖いとみえて可愛い。辛抱によると読売テレビへの出演は、総理大臣になったら出席するとの約束が選挙前からあったのだという。来阪の核心は、その約束を安倍が守っただけのことであり、「一つ言えることは、このおっさんは義理堅い」のだそうだ。
そのおっさんの日程を見れば、たしかに橋本との会談は付けたりだ。読売テレビのそばにあるニューオータニに呼んでの会談である。それも仰々しく官邸がリークまでしたにしては、会談は、歩く時間を入れると実質たったの10分。発表の20分あまりはとてもない。少なくとも1時間は会談しなければ、政治家同士が肝胆相照らす事はないのだ。安倍が橋下発言を「熱心に」メモを取っていたというが、果たしてその長さは一言か、それとも二言か。その直後の読売テレビ訪問は2時間に及んでいる。各社12日付紙面では100行前後の原稿に仕立てているが、よく引き延ばしの“飴細工”が出来たものである。辛抱は「読売テレビの収録の前に橋下さんとの会談をくっつけて、一応これでニュースにしておく形であった」と暴露した。
辛抱は安倍周辺がシナリオを書いた理由について、内閣記者会との関係があると分析する。「1ローカルテレビのために大阪くんだりまで行くとは、総理は言えないよなぁ。内閣記者会が普通なら結構怒る」と述べた。民放キー局の場合、同記者会が仕切って一つの番組だけに総理出演を認めているのだという。ローカル局への出演は異例だ。こうして辛抱の言うとおり、各社はすべて大阪訪問の本筋を見誤ったことになるが、大げさに言えば、こうして歴史は出来てゆくのだ。官邸筋は筋書きを書いたのは「Iさんあたりじゃないの」と漏らしているが、本当に内閣官房参与・飯島勲であるかどうかは闇の中だ。いずれにせよ、情報操作を知り尽くしたプロの仕業であることには違いあるまい。それにしても最近の政治記者は、2時間の番組のために10分間の会談をしつらえる政権側の意図・思惑にまで考えが及ばないのだろうか。政治記事はまず推理が大切なのだ。辛抱の指摘はもっともだ。しかし辛坊も軽い。約束を守った「おっさん」が聞いたら怒ることまで考えが及ばないのだろうか。頭はいいが、自己顕示欲の固まりのタレント癖があり、そんなことをばらせば2度と読売テレビに出てもらえないことまでは、考えが及ばない。
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