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2012-12-14 10:15
重い課題が浮上したオバマ大統領とイスラエル関係
川上 高司
拓殖大学教授
11月29日、国連総会においてパレスチナを「組織」から「国家」へ格上げするかどうかの投票が行われた。投票の結果、格上げに賛成が138カ国、反対9カ国、棄権41カ国という、圧倒的多数で支持された。これまではパレスチナ自治政府は「non-member observer entity」(ノンメンバー組織)だったのだが、今後は「non-member observer state」(ノンメンバー国家)となるのである。国家と認められれば国際司法裁判所などにも道が開かれることとなる。国家としての権利が認められることの意味は大きい。
今回反対にまわったのはイスラエル、アメリカ、カナダ、チェコの他はミクロネシア、ナウルなどの太平洋諸国である。一方フランス、イタリア、スペイン、ノルウエー、オーストリアなどヨーロッパはほとんどの国が賛成にまわり、イギリスやドイツは棄権した。つまりヨーロッパでアメリカに追従した国はチェコだけだった。11月30日付フォーリン・ポリシー電子版によれば、イスラエルにとってドイツの棄権は想定外のショックだったようだ。歴史的な経緯からイスラエルには好意的なドイツがパレスチナを国家と認めることに反対しなかったことは、ネタニヤフ首相にとって晴天の霹靂だった。逆にフランスがより積極的に賛成にまわったのは驚くことではない。昨年ユネスコでパレスチナを格上げするという論争を巻き起こしたのはフランスだった。そしてフランスは最近のユーロ危機で得た外交力を使って、スペインやイタリアなどに無言の圧力をかけて賛成票を増やすことに成功した。
ネタニヤフ首相はこの国連決議への報復として、パレスチナに支払う1億ドルの関税を凍結しさらにウエストバンクなどへの3000人の新たな入植を決めた。この報復に対してヨーロッパは猛烈に反発しイギリスやフランス、スエーデンはイスラエル大使を呼んで注意したうえで、自国の大使をイスラエルから引き揚げることも検討している。さすがにイスラエルへの経済制裁はヨーロッパ各国の足並みが揃わないので断念したようだが、制裁が検討されるほどヨーロッパはイスラエルに対して本気で怒っている。ドイツのスピーゲル誌によればドイツはフランスのように大使の帰国までは考えていないようだが、怒りの深さはそれ以上のようである。メルケル首相は慎重に言葉を選びながら懸念を表明しているだけにとどまっているが、もはやアメリカのようにイスラエルを支持することはなさそうである。
今回のヨーロッパの団結力は見事で、それがアメリカを苛立たせたと同時に同調する国の少なさにアメリカ自身もショックを隠せないようだった。選挙を控えたネタニヤフ首相がますます頑なになる可能性は高い。しかしイスラエルを支持したのがアメリカを除いてわずか7カ国という現実は、明らかにパレスチナをめぐる流れがグローバルに大きく変わろうとしていることを表している。この流れをどう活かすのか、あるいはイスラエルとともに世界から孤立するのか、オバマ大統領の2期目の課題は早くも大きく重いものになっている。
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