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2012-10-30 07:00
野田“延命演説”では「明日への責務」が欠落だ
杉浦 正章
政治評論家
所信表明演説から首相・野田佳彦の心理状態を分析すれば、相当追い詰められている事が分かる。自らの公約「近いうち解散」には一切触れずに、むしろ政権を「投げ出さぬ」と“延命懇願演説”の様相を呈した。「明日への責任」を20回も連発したが、その前提となる公約履行の「明日への責務」への言及がない。これでは野党も妥協点の探りようがない。新聞論調とはあえて違う意見を述べれば、参院野党が所信表明演説を拒否するのも宜(むべ)なるかなである。スジ論としては「審議拒否はけしからん」だが、野党も問責決議を無視されている。政治論としては「何でもあり国会」の幕開けを印象付け、政権には相当な打撃となる。揚げ句の果てに野田は、助けを有権者に求めて「後押しして欲しい」と弁舌豊かに強調したが、野田の口車には国民はもう懲りている。この演説を聴いて支持率が上向くことはあり得まい。通常首相が所信表明演説で仮定の政治状況を創り出して、これを否定する演説はしない。ところが野田はこれに終始した。「道半ばで仕事を投げ出すわけにはいかない」「やみくもに政治空白を作って政策に停滞をもたらすようなことがあってはならない」といった発言は、首相たる者その事態が生じてから言うべき言葉だ。まだ誰もいじめていないのに、子供が「○○ちゃんがいじめると言ったぁ」と泣くようなもので、大人が演ずると被害妄想となる。
そして焦点となっている「近いうち解散」の約束を履行するかどうかについては言及しないばかりか、内閣改造の大失敗が象徴する法相辞任も素通り。都合の悪い問題はすべて言及ゼロだ。これでは、「冷静にみれば首相は延命なんて考えていない」といくら幹事長代行・安住淳が強調しても、誰も信ずるものはいまい。そこには反省はかけらもなく、開き直りと延命懇願演説の性格が浮き彫りになってくる。何と言ってもこの国会の核心は「近いうち解散」の履行か否かなのだ。既に野田は党首会談で「条件が整えばきちんと判断する」と述べており、ここは当然その“条件闘争”のための対案を提示すべきところだ。「政局より大局」という野田が大局を理解していないのだ。この演説の結果、国会は首相の“売った”けんかを野党が“買う”展開となる。当然ながら全野党が激しく反発している。先頭に立つ自民党は自民党総裁・安倍晋三が「野田政権に明日はない。『近いうちに国民に信を問う』という一番重要な約束を果たしていないなかでは、何を言っても心に届かず、言葉が空虚に空回りして痛々しい」とこきおろした。公明党幹事長・井上義久も「既にレームダック状態になった死に体の野田内閣に課題をやり遂げる力も資格もないことを自覚すべきで、言葉だけがむなしく響いていた」と全面対決を前面に出している。
今後野党は野田が触れなかった“傷口への塩塗り”作戦を展開するだろう。作戦は“多正面作戦”となる。民主党は10月29日2人が離党して、あと3人の離党で単独過半数割れ、6人の離党で与党の過半数割れとなる。これが意味するものは政権の“風前の灯”だ。離党が進めば不信任案が可決され、憲政の常道として総辞職でなく解散を選択せざるを得なくなる。自民党幹部によると野党は、新党結成を表明した石原慎太郎も含めて、あの手この手で民主党議員に離党を働きかけているようだ。これに対して野田は29日夜当選1回生19人を公邸に招いて“頭なでなで”をしたが、政権はこちらを押さえればあちらから離党の水が噴出して、まさに末期症状だ。安倍は「不信任は最大の武器」として、そのタイミングを計ることになる。
加えてここに来て、内閣の要である国家戦略相・前原誠司が秘書のマンションを事務所扱いして経費を計上していた事が発覚したことは大きい。かつて民主党は安倍内閣で閣僚2人のクビを同問題で取っただけに、安倍の“逆襲”に会うことは避けられない。前原は絶対外せない罠(わな)のトラバサミにかかったようなものだろう。ここにきて幹事長・石破茂が総選挙の時期について、12月9日としてきた次期衆院選の時期を1週間拡大した。「来年度予算案の編成を新政権でやろうとすれば、12月9日か16日が投票日になる。11月の半ばには解散だ」と述べたのだ。明らかに都知事選とのダブル選挙を念頭に置き始めた。暮れの総選挙は、過去に例がいくらでもある。田中角栄が12月10日、中曽根康弘が同18日、佐藤栄作が同27日に行っているのだ。こうして野党の解散攻勢は一段と厳しさを増すことになる。新聞も判断が揺れに揺れている。読売は29日の朝刊で「解散先送り論強まる」とやったかと思うと、30日朝刊では「与野党対決解散含み」とまるで正反対。これでは読者はたまらない。近ごろの政治記者は判断が甘いうえに、安易だ。
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