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2012-10-10 10:07
狂ったペーパー・マネーとモノのバランス
田村 秀男
ジャーナリスト
またもや穀物や原油など国際商品市況が高騰している。米中西部を襲った熱波と干魃のせいで大豆やトウモロコシの先物相場が急騰するのはわかるが、原油価格に波及するのは何とも不合理だ。市場沸騰の要因は一つしかない。投機である。株式など金融市場からあぶれた余剰マネーが国債など債券市場では飽き足りず、モノ、つまり商品に向かうのだ。このマネー・フロー・モデルの始まりは2007年8月初めの米サブプライム・ローン危機である。米住宅価格の値下がりとともに、サブプライムを分解してその一部を組み込んだ証券化商品のリスクが表面化した。あわてた米欧の投資ファンドが金融市場から資金を引き揚げて、値上がりが見込める原油、金、穀物に投入するようになった。
08年3月には証券大手の米ベアー・スターンズが経営破綻し、米連邦準備制度理事会(FRB)が信用不安緩和のためにドル資金を市場に大量供給すると、その多くが商品投機に回った。他方で住宅価格は下落を続け、08年9月のリーマン・ショックに発展した。金融恐慌回避のためFRBは量的緩和第1弾(QE1、08年11月~10年6月)、第2弾(QE2、10年11月~11年6月)とドル札を大量発行するが、その規模は08年前半どころではない。金融機関には新たに2兆ドルの資金が流入し、一部は商品市況高騰の呼び水となる。投機熱は低迷する実物の需要と乖離しているので長続きしないが、何しろ余剰資金は市場に氾濫している。価格はいったん下落しても、ほぼ6カ月間隔で再上昇する。今回もそのパターンだ。
商品投機は今や恒常化した。英国の民間調査機関によると、世界の商品市場規模(商品資産総額)は10年末で08年比2倍以上の3800億ドルに上り、10年には600億ドルの新たな資金が流入した。商品市場に積極投資しているのは今や、米欧の年金ファンドである。米ワトソン・ワイアット社によると、11年末の世界の年金ファンド資産総額は27.5兆ドルで前年比1兆72億ドル増えたが、主力の運用対象である株式の総資産に占めるシェアは07年の55%から41%に減った。国債など債券は28%から37%に、商品など「その他」は15%から20%にそれぞれ増えた。
世界の市場規模は10年末で株式時価総額が55兆ドル、債券時価総額が95兆ドルに上るのに対し、商品はこれらの1%にも満たない。1兆ドル規模の年金資金増加額の3%でも商品市場の資金流入総額の5割に相当するのだから、年金ファンドは商品相場をいとも簡単に動かせる。皮肉なことに、老後の生活を保証するためのカネが食料品やエネルギー価格の高騰を促し、不況に苦しむ世界の現役世代を苦しめる。07年夏から5年たっても金融市場は壊れたまま、モノで生きる人々の生活を破壊している。
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