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2012-10-09 05:31
早期解散は今や野田の“良心”の問題だ
杉浦 正章
政治評論家
昔の政治記者は政治家の“心境物”を書いたものだ。担当している政治家の発言、一挙手一投足を分析して、自分がその政治家になったつもりになれば、初めて書ける。最近はほとんど見られないのは、それが客観性に欠けるからだろうが、今ほど首相・野田佳彦の心境を知りたいと思うときはない。あえてチャレンジすれば、国政への良心と党利党略のはざまで揺れ動く姿が見えてくる。良心が勝てば早期解散へと政局は動く。党利党略に堕するならば、臨時国会は開会しないでしのげても、通常国会は地獄の様相だ。きっと良心が勝つに違いない。幹事長・輿石東をはじめとする首相周辺の三流政治家たちが、「首相に解散権があるから、首相が『解散をしない』といえば解散はなく、任期満了選挙まで行く」と判断しているのは、経験の浅さもさることながら、解散という政局の“エキス”の実態を知らないからだ。もっと経験の浅い政治記者が、これに踊らされる。解散は自律的なものではなく、多分に他律的なものである、と言うところまで判断がいかないのだ。解散権は首相にあると言っても、あらゆる政治情勢がナイヤガラ瀑布のように解散の滝壺を目指して流れているときに、たとえ首相であってもこれに抗することは出来ない。
しかし、野田だけはこれを知っていると思う。知っているから、筆者が書いたように8月8日の谷垣との会談で解散を「11月になりませんか」と打診したのだ。また破れかぶれの滞貨一掃の内閣改造をしたのだ。予算編成までは出来ないと判断している証拠だ。それなのになぜ「近いうち」が「解散に私から触れない」になったのか。自民党は元財務相・伊吹文明が「ドジョウにだまされたということだ」と憤れば、幹事長・石破茂は「こっちにも覚悟がある。なめんなよ」と爆発寸前の様相だ。しかし、石破ほどの政治家が野田の態度を表面的にのみ解釈しているとは受け止めることは出来ない。かならず野田の言動の裏を読もうとしているのだ。懸命に情報も収集している。来週には行われるであろう3党党首会談は、その収集した情報のぶつかり合いの場となるのだ。その野田の“裏”を解釈すれば、まず離党の食い止めに必死の姿が浮かび上がる。あと5人で衆院民主党は過半数割れとなる。そうすると、あの小沢一郎が舌なめずりする事態が到来する。小沢が野田の生殺与奪の権を握るのだ。小沢が不信任案に賛成すれば、解散か、総辞職、反対すれば、野田は当面をしのげるが、今後自公との対決は決定的なものになる。
離党を食い止めることが生死の分かれ目となるのだ。もしいまの段階で解散の「かの字」でも口にすれば、離党者は続出する。赤字国債発行法案も定数是正も実現することなく、そのまま激動政局へとなだれ込むのだ。だから党首会談のぎりぎりの段階でしか、「かの字」に言及できない事情がある。あの小沢に近く、消費税国会でことある毎に野田を裏切ろうとしてきた輿石を、「献身的に支えて頂いた。一蓮托生で、代えることは全く考えていなかった」と歯の浮くような言葉で持ち上げたのも、小沢の残留組などの離党を食い止めるための方便に過ぎない。輿石を当面利用するしか手はないのだ。自民党人事が決まっても、与党の幹事長から何らお祝いの電話一本来ない事に関して、石破が「日教組というのは、そういう文化がないのではないか」と“侮べつ発言”をしているが、野田にしてみれば、その方が有り難い。党首会談も出来るだけ引き延ばしたいのであり、輿石が自民党と和合してくれても困るのだ。
先にも書いたように、野田の内閣改造人事は異常だ。滞貨を一掃した揚げ句に、父親とは似ても似つかぬ田中真紀子まで重要閣僚に登用した。これは自らもう政権が長く続くまいと観念した現れと見るべきであろう。いくら何でも法務大臣が就任早々からいわく付きの外国人献金で一番首を取られそうになっているという失態は、改造そのものに理念も、信念も、そしてやる気もない証拠だ。内調など調査機関の調査もなっていないのは、野田の事前の厳しい指示がなかったからであろうか。野田の心理状態がはっきりと読める改造だ。解散はここまでくると自律的でないと書いたが、公党間の約束をほごにして、国内政局を大混乱に陥らせ、中国につけいる隙を作ってはならないことぐらいはわきまえているはずだ。極めて他律的に判断せざるを得ないのだ。この国難の時に首相たるものが決定的な問題で虚言を吐いたとなれば、道徳的にも許される話ではない。消費増税の功績は薄れ、「歴史に残る虚言首相」になってしまう。したがって冒頭述べたように、野田は良心に従って行動に入るものと思う。良心で解散を決断し、代わりに赤字国債法案と定数是正を実現する。12月9日投票で、予算の最終決定を次期政権に委ねる。これこそが憲政の常道であり、少数党に転落しても、民主党が3党合意路線を追求して、将来への布石を打てる道が残るのだ。
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