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2012-09-14 08:30
TPPとRCEPを二者択一の関係にしてはならない
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
TPP(環太平洋経済連携協定)について、かねてから、2012年内の交渉妥結という当初の目標は達成が困難なのではないかとの指摘があったが、その通りになった。米豪など9か国のTPP交渉参加国は、9日に公表した閣僚報告書において、年内に出来る限り多くの分野の交渉を終える、として、年内の交渉妥結を事実上断念した。これは、TPPが目指すレベルの高い貿易自由化をめぐり、例えば、知的財産権の分野などで、各国の利害調整に難航しているためである。TPP交渉妥結の先送りは、我が国にとっては、ルール作りに参加する余地がそれだけ大きくなるというメリットがある。今さら参加してもルール作りに参加できない、という反対論があるが、それは当てはまらないということになる。我が国は、直ちにTPP交渉への参加を表明すべきである。野田首相は、参加表明を先送りしたが、これは重大な判断ミスであった。
一方で、TPPには、通商上の意義だけでなく、極めて重要な地政学的意義、すなわち、米国のアジア太平洋へのコミットメントを経済的側面から下支えするという意味がある。この点からすれば、交渉妥結の先送りは必ずしも望ましいとは言えない。ところで、TPPは、APEC全加盟国によるFTAAP(アジア太平洋自由貿易地域)構想に至るルートの一つと目されている。FTAAP構想に至るルートとしては、もう一つ、RCEP(包括的経済連携)がある。RCEPの枠組みは、ASEAN加盟国プラス日中韓豪印NZの16カ国である。8月30日に、この16カ国が経済閣僚会合を開き、11月にもRCEPの交渉に入ることで合意した。
TPPとRCEPを比較すると、まず、規模では、前者の域内人口は約5億でGDPは約18兆ドル、後者の域内人口は約34億でGDPは約20兆ドルである。しかし、RCEPの枠組みは、圧倒的に一人当たりGDPが小さい。そして、TPPには米国が参加しており中国は参加していないが、RCEPはその逆である。また、TPPが目指す自由化はレベルが極めて高いが、RCEPではそれほどハードルは高くならないのではないのではないかとの説がある。そこで、TPPとRCEPのどちらに重点を置くか難しい選択になる、といった論調が出てくるが、この両者は、決して二者択一的にとらえてはならない。TPPは米国との関係で不可欠である。RCEPは、先に指摘したように、自由化のハードルがそれほど高くならないのではないかという観測があるが、むしろ、我が国が率先して知的財産の分野におけるハードルを上げることによって、世界最大の知的財産侵害国である中国を牽制すべきであろう。TPPとRCEPの特色や意義をよく見極めて、両者ともうまく利用して国益の増進を図ることが肝要である。
TPPとRCEPを二者択一的に捉えることは、米中の二者択一という誤ったメッセージを与えることになる。これが、日米関係を悪化させかねないのは、もちろんのことである。さらに、我が国のような地域大国がそういう姿勢をとれば、地域の各国が米中のいずれかを選択することを迫られるという構図にしてしまうおそれがある。それは、アジア太平洋地域の安定と繁栄にとって大きなマイナスである。RCEP交渉への参加は結構だが、TPPを決して閑却してはならず、慎重に取り組む必要がある。そして、いずれにしても、我が国自身が積極的に貿易自由化に取り組むことが不可欠である。
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