ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2012-09-10 06:51
野田は売国の「原発ゼロ」路線を取るな
杉浦 正章
政治
出来ないマニフェストで国民をだました民主党政権が、再び出来もしない「原発ゼロ」を掲げて、総選挙に臨もうとしている。今週政府がまとめる新エネルギー政策で「原発ゼロ」に言及した方針を決定するというのだ。これで選挙大敗の流れを覆せると思っているとしたら、あまりにも浅はかな政治判断であろう。選挙対策で国益を売る、まさに「売国」の方針決定だ。折からエネルギー安保の観点から米国からも「ゼロ」への強い懸念が示され始めた。首相・野田佳彦はもう重要な外交・内政上の政策に“意欲的”になるべきではない。総選挙大敗を前にしてレームダック化が現実のものとなっているからだ。民主党内は「壇ノ浦」を前に慌てふためく平家のような状態となっている。何でも選挙に結びつけて、少しでも有利な選択をしようとあがく。そこには政権政党としての矜持などは吹き飛んで、「国益よりも、選挙あり」の状態しかない。選挙を前にして政党が大衆迎合路線に走る事は毎度のことだが、民主党の「原発ゼロ」路線ほどひどいものは選挙史上も珍しい。
それも、国家戦略相・古川元久によれば「総理の意向を踏まえたもの」だという。原発再稼働実施で野田は常識派かとみられていたが、選挙を前に自説を急旋回させるという醜態をさらけ出そうとしているのだ。それに先だって民主党は「原発ゼロ」 を“決め打ち”的に決定したのだ。内容は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするあらゆる政策資源を投入する」というものである。問題は、政府もこの大筋を踏襲する流れとなって来ていることだ。野田はその根拠に、政府実施の討論型世論調査などでゼロ支持が高いことをあげ、「少なくとも過半数の国民が望んでいる」などと主張している。筆者に言わせれば、調査はいわば政府の“お手盛り”である。設問の仕方でいくらでも答えは変わる。例えばゼロの弊害を前に出して「電気料金が倍になり、廃業が続出し、失業者が300万人に達するが、それでも原発ゼロでいいか」と聞けば、答えは限りなく「ゼロ支持」の方がゼロに近づくのだ。この政権の悪いところは、国民に物事をろくろく説明しないまま、一部マスコミやテレビに踊らされて重要政策を断行するポピュリズムにある。NHKの世論調査では2030年時点で原発ゼロが36%、15%が39%、20~25%が15%であり過半数は原発維持派だ。
民主党の政策の対極をなすものが、自民党のそれだ。国論が割れるときは即断を避け、冷却期間を置こうとする。自民党は最近提示した「日本再生のシナリオ」の中で原発問題についての即断を避けている。(1)当面の最優先課題として3年間再生可能エネルギーの最大限の導入を図る、(2)原発再稼働は順次実行し、可否について3年以内に全ての原発について結論を出す、(3)10年以内に新たなエネルギーの安定供給構造を構築する、としているのだ。明らかに福島原発事故後の“ヒステリー状態”での即断を避け、国の命運を左右する「原発ゼロ選択」を回避しようとしているのだ。自民党総裁・谷垣禎一は民主党のゼロ構想を9月9日のテレビで「不可能だと思う」と断定している。これに対して古川はNHKで「すべての原点は福島事故にある」と、事故を最大限“活用”しようとする路線だ。つまり大衆迎合の、選挙最優先路線の先頭を行くものだ。簡単に反応しすぎる民主党に対して、一呼吸置く自民党。明らかに自民党の方が政権運営に手慣れている。懸念は米国からも表明されている。既に米国は8月27日の記事で紹介したように「第3次アーミテージ・ナイ報告書」で原発推進維持を求めてきているが、8日の野田と米国務長官・クリントンとの会談でもクリントンから強い懸念が出されている。その背景には米国は原発開発のほとんどを日本に依存している状況がある。1979年のスリーマイル島事故以降、原発新設が途絶え、ウエスティングハウスは東芝傘下に、ゼネラル・エレクトリクスは日立傘下へと編入された。米国は日本を信頼し、日米原子力協定の下で原子力技術の日本移転を進めてきたのだ。これがアレバと共に東芝、日立が世界の原子力産業を3分化する流れを形成したのだ。
クリントンの「関心表明」はこうした事情を背景にしているから、重いのだ。日本がこれまでの原子力政策を転換すれば、米国の原子力政策や、原発推進方針をも直撃する問題となるからだ。米国が技術移転した青森の核燃料サイクルも、完成に向けての最終段階に入っており、途中で投げ出すわけにはいかないのだ。米国は野田にクギを刺したことになる。選挙対策で頭がいっぱいの野田が、これにどれほど気付いたかは分からないが、「原発ゼロ」の決定は、米国との同盟関係を揺さぶる材料になりかねないのだ。こう見てくると、馬鹿な有権者の大誤算で作った民主党政権が、その断末魔に到るまで国民に祟りにたたっていることが鮮明になる。「原発ゼロ」政策などは、実は野田が作成しても、机上の空論に過ぎないのだ。自民党が政権を奪還すれば、野田政権の原発政策の方向転換を実行するであろう。野田政権は、「原発ゼロ」でまたまた大誤算をするべきではない。国の命運を左右するエネルギー政策を選挙の材料になどすべきでない。野田は8日にロシア大統領との会談で12月に日ロ首脳会談を行うことで一致している。次々に延命策とも受け取れる方針を打ち出しているが、見苦しい。もう重要な決定などはすべきではない。米国でもレームダック化した大統領は重要な外交、内政上の政策判断を控え、次の政権に回すのだ。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4661本
東アジア共同体評議会