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2012-09-04 09:45
日韓両国に冷静な対応を求める
加藤 朗
桜美林大学教授
日本と 韓国との間で親書の受け取りを巡って、外交問題に発展している。いや、正確には外交問題が親書の受け取り問題に反映されているにすぎない。親書の受け取り問題が最終的に戦争の引き金になったことがある。それは1991年1月にジュネーヴで開催されたベーカー米国務長官とアジズイラク外務大臣との湾岸危機の最終交渉の席でのできごとである。アジズ外相は、クウェートからの即時撤退、イラクが国際社会から孤立している現状そして米国の軍事力の強大さを記したジョージ・H・W・ブッシュ大統領の親書を手渡されると「このような手紙を我が大統領閣下には渡せない」と付き返し交渉は決裂した。そして時を待たず湾岸戦争が始まった。
会談も親書の提出も米国の思惑通りに運んだ。イラクも米国も最後まで湾岸危機の平和的解決の努力を続けているとのジェスチャーを国際社会に示す必要があった。そして米国は親書という形でイラクに最後通牒を突き付けたのである。外交交渉ではもはや解決ができないということの象徴が親書の受け取り拒否ということである。
8月18日の読売テレビ、ウェークアップ!プラスで民主党の前原誠司幹事長が、竹島問題の解決を訊かれて、最後には「実力」でと口走りスタジオが凍りついた。東京のスタジオから猪瀬直樹東京都副知事がすかさずツッコミをいれ、「実力」とはどういうことかと前原に詰問した。前原も、口が滑ったと思ったのか、突然しどろもどろになり、返答に窮した。なおも猪瀬が質問を続けた。たまらず、司会の辛坊治郎が助け舟を出し、「そういうことではなく」つまり軍事力ではなく、平和的な実力という意味で前原が使ったと私たちは理解していると述べた。聞いている限り、猪瀬が正しい。そしてまた前原も正しい。領土問題が全く一発の銃弾を交えず解決した例は極めて少ない。思い浮かぶのは、沖縄返還だけである。
今、日韓双方とも国民世論の扇動でチキンゲームをしている。弱気になればどちらも政権(韓国は現政権よりも次期政権)がもたない。野田政権には、どこで チキンレースから降りるか、戦略はあるのだろうか。親書の受け取り拒否は外交交渉の終わりでもある。あとは制裁をかけるしか手段はない。制裁の行き着く先は前原の言うとおり実力行使である。米国もイラクに武力行使をした。しかし、平和憲法を持つ我が国が武力を行使できるだろうか、との疑問を大方の人は持つだろう。だが領土問題は自衛の範囲内であり、「実力」行使は現行の憲法解釈では合憲である。だからこそ日韓両政権共に冷静になってチキンレースをやめなければ、まさに正面衝突してしまう。
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