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2012-07-25 06:50
森の狙いは“谷垣再選”と「話し合い解散」の連動だ
杉浦 正章
政治評論家
イチローの電撃移籍の解説には熱心だが、どの新聞も元首相・森喜朗の“電撃引退表明”を解説できていない。なぜこの時点で表明したかといえば、ある意味で森は身を挺(てい)して「話し合い解散」の流れを推し進めようと言うことだ。自民党内で消費増税法案否決論が高まりつつある中で、森はこれに水を掛け、総裁・谷垣禎一の再選まで条件に出して、消費増税法案の3党合意路線を進めようとしているのだ。いわば“遺言効果”を狙ったものなのだ。この森の主張は、恐らく首相・野田佳彦の琴線にも響くものだろう。自民党内には、野田の早期解散否定と反比例するかのように3党合意破棄論が台頭し始めている。とりまとめの当事者である元幹事長・伊吹文明が「野田さんが党内を甘やかし、つらい決断をした自公両党の迷惑に気付かないのなら、ドラマは参院で始まる」と“ちゃぶ台返し”の可能性に言及。谷垣側近の元厚生労働相・川崎二郎も7月21日、津市での記者会見で「党内は、日に日に関連法案の成立前に不信任案を出しても構わないという議論になっている。必ず解散に追い込む」と述べた。加えて「9月30日投票で準備している」とまで言い切って、あくまで今国会解散に固執する構えを見せた。谷垣支持派としては、解散がないまま9月の代表選挙を迎えては、党内の谷垣批判が拡大して、再選が不可能になるとの判断が背景にある。
こうした中での森の引退表明である。引退の弁を整理すると、まず「今のところ、どう見ても谷垣さんしかいない。(総裁就任から)3年我慢してやってきたし、 瑕疵 ( かし ) はない」と谷垣再選を明確に支持した。これは事実上の町村派オーナーである森が、同派で総裁選に手を挙げている元官房長官・町村信孝と元首相・安倍晋三を支持しないということであり、大変な決断だ。さらに森は「消費税率引き上げ法案が成立したあと、民主、自民、公明の3党の党首会談を行い、次の衆議院選挙で第1党になった党にほかの党が協力するという約束をして解散すべきだ。今の日本の政治を変える方法はそれしかない」と話し合い解散を明言した。それも3党のうち、自民党が第一党になれば谷垣を首班に、民主党が第一党になれば野田を首班に据えるという、選挙後まで見据えた話し合い解散である。
森はこれまで解散強硬路線一点張りの谷垣を批判し、面罵するケースすら見られたが、なぜここで再選支持に急転換したかということだ。森は20日に谷垣と食事を共にして会談している。恐らく森は谷垣が少なくとも消費増税法案は成立させる姿勢であることを確認したのであろう。森は、かねてから消費増税法案での3党合意路線を主張してきており、谷垣の合意への姿勢を評価したに違いない。しかし、最近の自民党は、明治維新で司馬遼太郎がよく書いたように「長州藩の浪人志士団の暴発」のごとく、参院の前政審会長・山本一太らの“暴発”の可能性が生じている。消費増税法案の成否など無視して、首相問責決議案を上程、可決してぎりぎりの状態に野田を追い詰め、解散を獲得しようという動きだ。これは衆院側にも波及しており、さすがに対自民党協調路線の公明党代表・山口那津男までが「合意を覆すような動きは国民に対して十分な説得力を持たない」と不満を述べる状況に到っている。
森はこのままでは消費増税の千載一遇のチャンスを失いかねないと判断したに違いない。そのためには谷垣支持グループに安堵感を与える必要がある。つまり「谷垣再選」を支持するという、インパクトを与えて、3党合意路線に流れを戻そうとしているのだ。この森の姿勢は、大局観に根ざしており、森にしては見事な対応の部類に入る。野田はこうした動きを多としなければなるまい。ここは3党党首が話し合って、野田はこの際解散を確約すべきだ。それも早期解散ではなく、民主、自民両党の党首選挙を終えた後での解散、つまり臨時国会冒頭解散を確約すれば良いではないか。9月の党首選挙をクリアして、「野田代表」、「谷垣総裁」で総選挙に臨むのだ。野党は解散先送りは信用出来ないかも知れないが、いったん約束すればもう流れは止まらない。確実に臨時国会解散へと動くものなのだ。
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