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2012-06-26 09:32
中央銀行への過大な期待は禁物
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
いま、先進国のほとんどのセントラル・バンカーは、さぞかし辛い思いをしていることであろう。事実上、ゼロ金利状態で、金融政策の余地が極めて限られているにもかかわらず、多くの人々は、それを正しく理解しようとせず、問題解決に向けて、中央銀行に過大な要求を突き付けている。金融政策の有効な手段がすでに残されていないという無力感、自分たちがやってきたことが正当に理解されないという無念さに苛まれているのではないだろうか。欧米経済が大きな問題を抱えているがために、円への資本逃避が起こり、大幅な円高が進行している。その結果、日本企業の業績が大きく削がれる事態となっている。企業のトップの間にも、日銀がマネー・サプライを増やせば、円高が是正されると考えている向きが少なくないことに驚かされる。
こうしたマネタリスト的な考え方は、一般の人々にはわかり易いのかもしれないが、完全に間違っている。実体経済とマネーの因果関係について、彼らは、マネーを先に出せば実体経済は後について来ると理解しているが、それは因果関係の順序が逆である。こうした考え方は、「金融は経済の頭脳である」といった金融優位の誤った考え方に結び付くが、それこそが米国発のグローバル危機を招いた根因であったことを忘れてはならない。米国FRBのバーナンキ議長は、QE2を含めて量的金融緩和を積極的に行ってきたが、これは極めて自己中心的な政策で世界経済に悪影響を及ぼしているとして、新興国等の怒りを買ってきた。また、中長期的には、米国経済自身にとっても好ましいものとは言えないと、筆者は理解している。
米国経済は、リーマン危機の影響で、2008年第3四半期から4四半期連続してマイナスとなったが、その後は2009年の第3四半期から今年の第1四半期まで、11四半期連続してプラス成長であり、その間の平均成長率は年率で2.4%であった。米国経済は、官民ともに非常に大きなバランス・シート調整、すなわち米国民の生活水準の引き下げを必要としているはずであるが、そもそもこのようにかなり順調なプラス成長を続けながら、それを実現するなどということは不可能である。しかも、成長の中身がさらに問題である。米国の個人消費も、2009年第3四半期から11四半期連続してプラス成長であり、その間の平均成長率は年率2.2%であった。米国発の危機が頻発してきたのは、究極的には国民が身の丈以上の生活を続けてきたことにあるが、このように相も変わらず、個人消費主導の成長路線を走っているようでは、家計部門のバランス・シート調整は全く進んでいないどころか、より悪化しているはずである。すなわち、いま米国で起こっていることは、FRBの超緩和的な金融政策の下で、愚かしくもまたもや新たな経済的バブルの形成過程に入ってしまっているということではないだろうか。
円高で一番困っているのは日本企業であるが、批判・攻撃すべき相手を間違えてはいけない。相手は内にいるのではなく、外にいるのである。すなわち、批判の対象とすべきは、為替レートの過大な変動を許している国際通貨制度のフロート制そのものであり、また、基軸通貨国としての責任を全く果たそうとしないアメリカである。国際的なル-ルを所与と考える必要はない。そもそも、フロート制は、国際社会に望まれて誕生したわけではなく、1971年8月のニクソン・ショックをきっかけに、なし崩し的に移行してしまったものに過ぎない。その誕生の経緯は、誠にもってお粗末極まりないものである。われわれは、より安定した国際通貨システムを目指すべきであり、そのためには、まず日本企業が現行システムに強い異議を唱えることから始めるべきである。
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