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2012-05-31 06:48
会談“決裂”で「6月政局」に流れ急
杉浦 正章
政治評論家
「会談は平行線」と、当たり障りがないような報道が目立つ。民主党幹事長・輿石東も「1時間半もやったのだから、どこも『決裂』とは書かないだろう」と、したり顔だ。しかし、時間と内容は関係ない。これは「限りなく決裂に近い物別れ」だ。首相・野田佳彦は紛れもなく5月30日、事実上の「小沢切り」に出たのだ。時代劇映画で、後で斬られたことが分かるような手練の早業だ。その証拠に元代表・小沢一郎は側近に「このままなら6月政局だ」と漏らしたという。再会談などどこかに吹き飛んでいる。野田が、消費増税法案成立を目指して、自民党との協調路線に大きくかじを切ったのだ。さらに加えて野田は、大飯原発再稼働の最終決断への動きに出た。野田は、政局でも、政策でも、ここに来て一挙に勝負に出た形だ。政局は、揺れながら、解散・総選挙も視野に入る激動状態に突入した。野田・小沢会談における発言で野田の立場を象徴するものは、消費増税法案成立がない場合には「決められない政治として日本の政治は漂流する」と述べた点だろう。民主党政権は、2代にわたる首相の失政に次ぐ失政で、野田は「3度目の正直」を求められていた。ここでアクションに出ない限り、虻蜂取らずのじり貧に陥ることは確実であるからだ。その大きな障害として立ちはだかったのが小沢だ。とっくに破たんしたマニフェストに原理主義者のごとく固執して、消費増税法案を政局の糧にして生き延びようとする必死の姿をあらわにして、隠そうともしない。
会談では、端的に言えば、今国会成立を明言した野田と、これに正面切って反対する小沢との激突であり、妥協点は一切感じられないものであった。もともと小沢は、消費税には反対ではなく、時期尚早論であり、これが会談でも明白となった。しかし、野田の説明した「時間軸での対立」は、妥協の見出しがたい問題である。政治生命をかけると言って今国会成立を至上命題とする野田と、ひたすら選挙に不利に作用することを意識して先延ばしを主張する小沢との、「時間軸での対決」は、抜き差しならないものであることは明白なのだ。事実上の決裂の結果で、野田には選択肢があるが、小沢にはない。というのは、野田には自民党との協調路線の選択があるが、小沢は自らを袋小路に置いてしまったからだ。小沢は党を分裂させて新党を作っても、これに手をさしのべる野党はない。じり貧のまま選挙大敗を待つのみであろう。したがって、分裂・新党の選択はありそうで困難な選択なのだ。小沢は“内弁慶”的に体制内闘争を展開するしかないのである。野田は、執行部に会期中の衆院での採決を指示するという、攻勢の追い打ちに出た。小沢は、逆に消費増税法案反対投票か、お茶を濁して棄権するか、自由投票とするかの選択を迫られることになる。乾坤一擲の勝負は7対3で野田が勝ったのだ。会談後小沢は、打って変わってテレビに露出を繰り返し、国民に向け訴え始めた。訴えられる国民にしてみれば、悪女の深情けのようで、気味が悪いくらいだ。
しかし、野田は富士登山で言えば、5合目に到達したにすぎない。今後自民党を引き寄せるには、問責2閣僚の更迭と解散・総選挙への踏ん切りが求められるからだ。ここまで来た以上、野田にとっての選択肢は、「後ずさり」ではあり得ない。前進しない限り展望は開けてこないのだ。その手始めに問責2閣僚を早期に更迭することだ。更迭して得られる代償に比べれば、ダメージはほとんどないに等しい。一方で、自民党も政権を担当し得る政党かどうかの真価を問われる状態に入った。当然消費増税法案成立に向けて前向きに動き出すべきときだ。それにもかかわらず、執行部の反応はいまだに様子見である。幹事長・石原伸晃に到っては問題を掌握しているのかと思えるほど極めて軽い。まず「『大山鳴動してねずみ一匹』と言いたいところだ。これだけ大騒ぎして何もなかった」と事態の重大な進展を誤認している。「面白い話がどんどん入ってきている。野田首相は問責された2閣僚を来週にも罷免するという話だ」と本当なら機密に属する話を公言してしまう。これで次の総裁候補だとは聞いてあきれる。
さらに野田の同日の決断で特筆すべきは、大飯原発再稼働に踏み切ったことだ。直接的な背景には関西広域連合の分裂・軟化がある。明らかに原発担当相・細野豪志が同日の広域連合の会合を事前の根回しで見事に陥落させた。それも「暫定的」という合い言葉で引き込んだ形だ。細野は「今回示した大飯原発再稼働への安全基準は暫定的なもので、規制組織ができれば作り直す」と表明した。これを受けて広域連合は「政府の安全判断が暫定的であることを踏まえた適切な判断を求める」と稼働容認の声明を出すに到った。まるで出来レースであある。夏の電力不足も現実味を帯びてきて自治体トップも観念論を唱えてばかりはいられなくなったのだ。大阪府知事・松井一郎が確信犯的に批判の立場をとったが、和歌山県知事・仁坂仁伸は理解を示すなど、各知事の対応も割れた。威勢のよかった大阪市長・橋下徹や京都、滋賀両県知事も「暫定的」という“落としどころ”の誘惑に“落とされた”のだ。要するに、腰砕けに終わったのが実態だ。橋下だけが相変わらず「基本的には認めない。しかしそういう原発の動かし方もあるのではないか」と支離滅裂な論理を展開しているだけだ。もっとも大飯原発が暫定的に稼働することはあり得ない。うそも方便とはこのことだろう。
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