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2011-11-16 06:54
野田は“二枚舌”だが、それは問題の本質ではない
杉浦 正章
政治評論家
参院予算委員会で「野田さんは人気ラーメン店の前に並んだのだ。食べるために並んだのであり、食べずに帰ることはあり得ない」と野党が追及していたが、もっともだ。ところが、首相・野田佳彦は世間体を考えてか、「並んでも食べない場合がある」などと言い張る。その矛盾が露呈したのが、野田発言をめぐるホワイトハウスの発表と野田の主張の食い違いだ。たしかに自民党の山本一太の言うように、まぎれもない“二枚舌外交”の露呈である。しかし事の本質は、そこにはない。まず、すべてを交渉のテーブルに置くのは、外交交渉の基本であるからだ。野田が訪米する前から、筆者は国内の反対派向けの発言と外交の場での発言の食い違いが問題になると予想していたが、その通りとなった。繊維交渉で首相・佐藤栄作が直面した問題とそっくりだからだ。佐藤は国内の反対派を押さえるため、ニクソンに「前向きに検討」という極めて日本的な表現を使ったが、その後進展せず、ニクソンは「ジャップの裏切り」とまで口走った。日本国内では政治家が「前向きに」と言えば、やらないことの代名詞であることを佐藤は“利用”しようとして、失敗したのだ。
今回の場合、ホワイトハウスのアーネスト報道官は「すべての品目とサービス分野を貿易交渉のテーブルにのせる、との野田首相の発言をオバマ大統領は歓迎した」と発表した。これに対し、野田は予算委で「私の言ったことではない」という説明で切り抜けようとしている。しかし、野田は「おそらく昨年の閣議決定の基本方針に書かれたことを発表したのだろう」とも言及した。菅内閣の閣議決定には、米側発表の通りのことが書かれている。ここに野田の国内向けと国際向けの使い分けの矛盾が存在する。語るに落ちたのだ。確かに野田は自分の言葉では「すべてをテーブルに載せる、とは一言も言っていない」だろうが、会談で閣議決定に言及していることは確かだ。だからアーネストが「野田首相や政府関係者が公式に話した内容に基づく」と野田に限定しないで複数の発言を根拠にして、訂正を拒否したのだ。要するに、野田は明確に発言してしまえば、TPPへの参加表明と国内で受け止められるため、それを避けながらも、閣議決定にだけは言及して「すべてをのせる」を浮き彫りにするという苦肉の策を使ったのだ。
米側は、日本の国内事情まで配慮した発表文は作らない。だから野田発言の文脈から類推して「すべてを載せる」と表現したのだろう。就任したばかりで、外交の素人の首相が陥りやすい対米交渉の落し穴にはまったのだ。国内向けと国際向けの“二枚舌”は、総じてすぐにばれることを知らないのだ。しかし、問題の本質はそこにはない。外交交渉の場で「とりあえずすべての対象をテーブルにのせる」のは、当然のことである。それを取捨選択するのが、以後の「交渉」に他ならない。みんなの党幹事長・江田憲司が「反対派を考慮して言わなかった、というような弱腰では、米国をはじめ参加国と国益を守る交渉はできない」と述べているのが正論であろう。コメにしても公的保険制度にしても例外品目として外すのが交渉力であろう。
自民党はこうした問題をとらえて、質問に立った山本が「あなたの問責決議案を含め厳しく対応していく。来年3月までに必ず内閣総辞職か衆院解散に追い込む」と発言したが、この姿勢は全くおかしい。自民党こそ“二枚舌”であるからだ。11月15日の経団連との会合で、政調会長・茂木敏充は「TPPに反対と言うことではなく、拙速ということだ」と説明したが、交渉参加に反対しておきながら、選挙その他で支持を期待する経団連には「反対ではない」では明らかに矛盾する。“二枚舌”もよいところだ。会長・米倉弘昌に「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったら、もっと困るでしょう」と皮肉られて、総裁・谷垣禎一以下ぐうの音も出なかったようではどうしようもない。そもそも外交交渉マターを問責決議の対象にすることはいかがなものか。外交権は憲法73条で政府にあり、参院が交渉が始まっていない段階から問責決議で外交のフリーハンドを縛ることは得策とは思えない。憲法では、条約の締結は事前または事後に、国会の承認を経ることを必要とするとあるから、交渉が妥結し、条約化した段階で応諾を決めればよいではないか。ここは暖かい目でとは言わないが、厳しい目で交渉の成り行きを見守るときだ。
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