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2011-08-11 07:27
ポスト菅は野田を軸に展開、小沢はまだ様子見
杉浦 正章
政治評論家
またまた懲りない男の登場だ。何と議員148人も集めて、元代表・小沢一郎が講演だ。言うまでもなく、ポスト菅をにらんでの党内けん制に出た。「おれの意向を無視しては、決まらないぞ」というわけだが、無視できないところに民主党の抱える業(ごう)がある。月末28日と予想される代表選に向けて誰が先頭を切っているかというと、紛れもなく財務相・野田佳彦であろう。他に手を挙げている候補はまだ雑魚しかいないが、農水相・鹿野道彦らも近く立候補するだろう。今後半月の間に、例え有力候補が現れても、先行した野田を軸に展開するものとみられる。最大のテーマが増税となるだろう。その増税への対応で、この国を担える人物かどうかの判断が、可能となる。小沢が増税に反対しているからと言って、こびを売ってすり寄ってまで政権を手に入れるとすれば、紛れもなく破綻したマニフェストと同じ因果関係が生じてしまう。
政府の復興基本方針における復興事業費の総額は23兆円である。最初の5年間に19兆円を投入することになる。このうち赤字国債でまかなう復興債は10兆円を超える。この財源を増税以外でまかなうことは不可能であり、「可能」と主張するならば、その根拠を示す必要がある。しかし、根拠は出てこない。無理にこじつければ、「16・8兆円の財源が節約で出てくる」とうそをつきまくって、破綻したマニフェストと全く同じことになるのだ。こうした中で、野田は8月10日発売の文藝春秋で、税と社会保障の一体改革の実現に向けた覚悟を訴えている。野田は「大震災を理由に、財政健全化への取り組みを先延ばしにすることはできない。財政再建は未来への責任だ」と強調するとともに、「覚悟を持って、この一体改革を実現したい」と公約している。ただ後述するが、なぜか「消費税」と言う文言は使っていない。一方で、代表選への立候補が取り沙汰される前外相・前原誠司や経産相・海江田万里は、消費増税路線とは一線を画している。前原は「日本がかかっているデフレという病気を脱却し、安定した経済成長に移るまでは、増税すべきではない」と主張している。馬淵澄夫、小沢鋭仁も同様だ。
あきらかに120人を擁する小沢グループを意識しており、ここにも「小沢か、脱小沢か」の旧態依然たる力学が作用している。しかし未来永劫増税なしで対応できると見る国会議員は、共産党以外にはいまい。煎じ詰めれば、時間軸をどうとらえるかの問題なのだ。「今は反対」(馬淵)と言っているのであり、「10年代半ば」の実施時期を言う野田とどう違うのかと言えば、反対派はひたすら小沢にこびを売るための発言としか思えない。一方で、政権運営の鍵を握る野党との関係では、自民党総裁・谷垣禎一が「野田さんの言動を見ると、思いつきをポンポン打ち上げる人ではない。ああいうキャラクターには、もう少し頑張ってもらう必要がある」とエールを送っていることがプラスであろう。こうした中で小沢の真意はどこにあるのかを探ると、去る6月半ばに小沢は既に、野田に対して極秘裏に「代表選で消費税増税路線を凍結せよ」という“条件”を伝えているのだ。そういう背景をもとに野田の論文を見れば、「消費税」の文言がない意味が分かる。また政府・与党の社会保障改革検討本部が6月30日決定した「消費増税10%」の方針も「10年代半ば」とぼかしている。こういう時期には野田が政治家なら、文春論文を小沢に先に見せて、懐柔を図るものだが、その辺は霧の中だ。
小沢は、鳩山由起夫と「経済情勢が悪化する中、増税は支持を得られない」として、「ポスト菅」候補は増税慎重派が望ましいとの認識で一致したが、棒を飲んだような表現を避けている。8月10日も2009年衆院選マニフェストについて「個別の政策は大事だが、国民が本当に期待した原点は何なのか。お互いに心に問いかけないといけない」と、見直しを容認する発言をしている。小沢は、まだ「増税の野田は駄目」と旗幟(きし)鮮明にしていないのだ。というのも、小沢にとって担ぐべき候補が見当たらないのが実情だろう。野田も「誰かから脱するとか、誰かを除くとかいう話は不毛だ。一番超えなくてはならないのは、怨念の政治だ」として、明らかに小沢との融和路線を目指している。裁判を抱える小沢にとって、敵対政権ほどまずいものは無い。敵対しなければよいのだ。号泣の海江田万里や存在感が希薄な鹿野道彦、基本的に泡沫の樽床伸二、馬淵、小沢鋭仁を支持するにはためらいがあろう。前原を押すとなれば、一挙に野田は予断を許さなくなる。しかし野田以上に「反小沢」の言動を繰り返した前原である。いくら「増税に反対」と言っても、推すだろうか。小沢は「菅以外なら誰でもいい」とも漏らしており、まだ白紙で様子見なのだろう。
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