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2011-07-15 07:26
再生エネ法案、政局がらみで風前のともしび
杉浦 正章
政治評論家
「これでは突撃したはいいが、菅君は玉砕だ」と民主党長老が漏らしている。確かに首相・菅直人が華々しく「脱原発」の大転換を打ち出したものの、政界、財界は言うに及ばず、労働界までが総スカンだ。首相発言は、ある意味でフクシマ以来の脱原発論の堀の深さを測る側面があったが、計った結果意外に浅いと分かり、少なくとも原発再稼働に向けてプラスに作用した。菅はやぶをつついて蛇を出したことになる。菅が退陣の条件とした再生可能エネルギー特別措置法案の審議が7月14日に始まったが、これにも脱原発発言による逆効果が生じている。自民党には成立させる前に菅が自壊するとの見方が台頭してきているのだ。同法案は、自民党の解散戦略とも絡み始めた。菅の脱原発を擁護していた官房長官・枝野幸男が、新聞論調の厳しさを知るや、14日にはまたまた新幹線より速く「脱菅」だ。首相発言を「遠い将来の個人の思い」と宣うた。幹事長・岡田克也にいたっては「実現を現首相の下か、新首相の下で行うかは、政府が決めることだ」と露骨に皮肉った。ましてや野党が「論評するにも値しない」(自民党総裁・谷垣禎一)と切り捨てるのは当然だ。
財界の批判は、かねてから「これほど社会主義的な産業政策はないと思う。企業は蹴飛ばされて海外に出ざるを得ない」(経団連会長・米倉弘昌)としてきただけに、予想されたところだが、連合会長の古賀伸明までが「民主党内や閣内で議論しておらず、具体化する道筋や方法論もほとんど触れていない」と批判した。要するに、総スカンなのである。しかし、首相は政府の最高責任者。枝野の言うように「個人の思い」で政治をやられては、国民の方がたまったものではない。パフォーマンスにいちいちつき合ってはいられないのだ。菅にしてみれば、支持率低迷で最後の巻き返しを狙ったつもりであろうが、これほどの逆風が吹くとは思っていなかったに違いない。すべてが「死に体」首相の人徳に起因するのだ。この朝野を挙げての「菅の手による脱原発」批判が意味するものは、原発の危険性は熟知しながらも、当面過渡期的には原発に頼らざるを得ないという苦渋の選択を、国民がしていることを意味する。自然エネルギーはあくまで将来の課題としてとらえる冷静さが、主流となりつつあるのだ。
そこで国会の焦点は、菅の「私の顔をもう見たくないのなら、この法案を早く通した方がいい」との“妄言”が象徴する再生エネ法案の行方だ。菅が退陣の条件としているものだが、通信大手ソフトバンク社長・孫正義への露骨な利益誘導が指摘されており、法案の行方は混沌としている。孫は、あきらかにフクシマ以降の状況を「太陽光ブーム」の前兆と見立てており、政界、地方自治体に大きな網をかけた勝負に出ている。その最大のポイントが再生エネ法案なのだ。固定価格買い取りで、買い取り価格は、原発の発電単価の4倍のキロワット時42円だ。孫は新法成立後も42円で買い取られればペイすると踏んでいるようだ。菅は恐らく孫にその辺の約束をしているに違いないが、孫の思惑通りに固定価格買い取りが実現するかどうかは微妙だ。よく太陽光利用で欧州の例が挙げられるが、大々的に買い取り制度を進めてきたスペインの場合は、「太陽光バブル」が弾けて、同発電は壊滅状態だ。リーマンショックで補助金が出せなくなった結果だ。そこで国会がどう動くかだが、自民、公明両党は極めて慎重だ。自民党は企業や家庭の電気料金に跳ね返ることを懸念している。標準家庭で月150~200円の値上げになる。原発の停止で料金値上げが言われている中で、料金のさらなる上積みは避けたいのだ。
経産相・海江田万里も150円以内の値上げにとどめる意向のようだ。しかし、問題は菅が法案を退陣の条件に挙げていることだ。こじらせれば、菅がますます居座るが、それでいいのかということだ。注目すべきは、最近自民党首脳の間で「居座らせて年末にも解散させた方がいい」という見方が生じ始めたことだ。時事通信の最新調査で、支持率12.5%、不支持率71.2%という事態では、菅の手による解散の方が間違いなく有利だからだ。谷垣も同法案の処理への明言を避けている。これには2つの理由がある。1つは、この絶好の「菅の手による解散」論。他の1つは、民主党内の「菅降ろし」が佳境に入る兆候を見せているからだ。「捨てておいても自壊する」と言う見方が出てきているのだ。自壊の動きを見極めてからでも遅くはないというわけだ。菅の言うなりに問題のある再生エネ法案を処理しない方が、政局は野党に有利に動く可能性があるのだ。もともと大震災を想定していない法案だけに、国会で大幅修正するか、いったん廃案にして、原発論争が落ち着いてから状況に見合ったものに修正して出し直すことを考えた方が、得策かも知れない。
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