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2011-07-07 07:29
またも「延命」狙いの原発ストレステスト
杉浦 正章
政治評論家
「浜岡停止」に次いで、またも保身のための原発利用である。首相・菅直人がこれまでの方針を唐突にも一転させ、地元と話が付いていた玄海原発再稼働に事実上ストップをかけ、先延ばしにさせた。地元と調整を続けてきた経産相・海江田万里は2階に上がって、はしごを外された。再稼働のめどは全く立たなくなり、7~8月の電力事情逼迫回避は不可能となった。電力の安定供給という、いわば国家経営の聖域部分を政治的に利用し、あわよくば「脱原発解散」を狙う“市民運動家”菅の姿勢がいよいよ鮮明となった。菅が海江田に指示したストレステストとは、機械に負荷を加えて影響を確認するテストで、EUが原発チェックに導入、6月から実施している。しかし、海江田はさる6月18日に安全宣言を出して、玄海原発の再稼働を手始めに、休止中の原発の再稼働を推進しようという矢先であり、テストは屋上屋を重ねる意味を持つ。なぜこの時点で菅がストレステストを持ち出したのだろうか。全ては、菅が、玄海原発の再稼働によって政治的窮地にに追い込まれることを回避し、逆転攻勢に出ようという私的思惑に絞られる。
玄海原発再稼働は、玄海町長・岸本英雄が了承して、九州電力にその旨伝え、佐賀県知事・古川康は菅の説明を受けた上で今月中旬にも再開に踏み切る意向だった。その前提として知事は、菅からの直接の説明を求め、官邸に申し入れる予定だった。全国の原発立地県では、菅が浜岡原発を「なぜ止めたか」が最大の疑問となっており、再稼働できない状況を招いているのだ。知事らの間では、菅の直接説明を求める要望が強く、石川県知事などからも声が上がっていた。知事らは「菅を信用できない」のだ。政権内部でも幹事長・岡田克也から「国民生活や経済に重大な影響を及ぼす。どこかの段階で、首相は明確に発言した方がいい」との声が出ている。7月6日付けの読売新聞も、社説で「玄海原発再開へ首相自ら説得にあたれ」と主張した。こうして6日の予算委集中審議を迎えたが、事前の質問主意書で野党が取り上げるのが必至と分かった。
ここで“逃げ菅”ぶりが発揮された。急きょ対応を練って、ストレステストで時間稼ぎに出たのだ。浜岡のケースと全く同じで、ストレステストと言えば水戸黄門の印籠となる。誰も反対できないと踏んで、今度はずるがしこくも、自分が発表せずに、6日朝に無理矢理海江田に発表させた。しかし、菅は、原発再開について安全宣言の翌日6月19日のインターネット上の国民対話で「全ての原子炉を止めることは、あまりにも経済に対する影響が大きい。今までより安全性を高めた基準を示し、それがなされたものは、再稼働を認めていく。経産相と考えは全く同じ」と明言している。海江田の方針を完全に支持していたのだ。海江田にしてみれば、首相の意向を受けて再開に向けて動き出したのであり、菅による「浜岡原発停止の発表横取り」に次いで、またまた唐突なパフォーマンスに“活用”された形となる。ここまで来ると、海江田も「人が良い」では収まらない。永田町では「人が良い」は「馬鹿」の代名詞だ。政治家としての尊厳と資質が問われる事態となった。本来なら辞表提出で抵抗すべき問題であるはずなのに、卑屈にも菅に従っている。陰で激怒してみても遅いのだ。岸本町長も「人を小馬鹿にしている。ストレステストの結果次第では、同意撤回も考える」と憤まんやるかたない様子だ。
菅の狙いは、言うまでもなく再生エネルギー買い取り法案推進と同一線上にある。「脱原発」をシングル・イシュウにした解散による生き残り策である。予算委では、新聞に取り上げられたい一心で、首相に“よいしょ”する質問が出た。みんなの党代表・渡辺喜美が予算委で、伸子夫人が塩野七生の言葉「刀折れ、矢尽きるまで」を信奉していることを取り上げ、「伝家の宝刀は折れていない。解散せよ」と迫った。これに対して菅は「激励と受け止める。満身創痍(そうい)、刀折れ矢尽きるまで、私の力の及ぶ限りやるべきことをやっていきたい」と乗りに乗った答弁をした。解散しかねない勢いだ。しかし、昨日も指摘したように、菅に解散の力が残っているかは疑問だ。世論調査では内閣支持率は最低の20%程度となっており、復興相辞任でさらにこれが10数%まで落ちるだろう。さらに居座れば、10%を割るのも間近かだ。この低支持率で解散を断行することは、不可能に等しい。民主党にとっては自殺行為であり、三木武夫と同様に閣僚の解散詔書署名拒否の動きや、党役員・政府首脳の連快(れんぺい)辞任の動きも出よう。ストレステストも、それ自体には誰も反対するものではないだろうが、政治的には“悪あがき”の部類に入る、としか言いようがない。おまけに8月いっぱいで辞任する首相が、欧州の例でも最短で2か月半以上かかるテストを指示するのは、僭越だ。この調子では自民党は、菅政権が続くほど「菅による解散」路線が戦略上有利になると判断する時期が来るかも知れない。
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