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2011-04-02 15:46
今回の大震災と東アジア共同体
細川 大輔
大阪経済大学教授、本評議会有識者議員
日本が地震、津波、さらには原発の放射能漏れに騒然とするなか、ベトナムとインドネシアを回ってきた。ジャカルタではERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)を訪問した。ERIAは、日本の資金により2008年に設立されたASEANおよび東アジアの経済統合を推進するための政策研究機関である。今回のASEAN各地歴訪の所感を、つぎに述べてみたい。
ERIAのこれまでの成果としては、2010年第5回東アジア首脳会議に提出し、承認された「アジア総合開発計画」や、ASEANからの委託を受けて作成した「ASEANコネクティビリティー・マスター・プラン」などがある。前者は、ASEAN全加盟国とドナーが発表している700件におよぶインフラ整備計画を、経済モデルを用いてそれぞれの経済効果を分析し、優先順位をつけたものである。各国の国益がぶつかり合う至難の作業と思われるが、東アジア・サミットで承認された。後者は、ASEAN共同体構築に向けての課題を、物理的連結、制度的連結、そして人的連結の促進と捉え、合計19の戦略を打ち出し、それぞれの行動計画を策定したものである。2015年に迫るASEAN経済共同体設立に向けた最終段階の工程表として位置づけられている。
中国が、上からの外交政策として東アジア共同体を捉え、量の経済力で押してくるのに対して、日本は、市場原理に基づく民間企業の生産ネットワークの形成をベースとして、東アジアの統合を捉えている。今後日本は、ERIAのようなASEANに対する知的支援をさらに強化し、官民一体となってASEANのインフラ整備を推進していくことが重要であろう。それがアジアの経済建設への需要を、日本に取り込んでいくことにつながるからである。ASEANの動きは英語で発信されるため、日本におけるERIAの認知度は低い。しかし、ERIAの存在と実績はもっと日本で評価されていい。お話を伺い、西村英俊事務総長のASEANと東アジアの経済統合に対する並々ならぬ情熱に大きな感銘を受けたものである。
最後に、今回の大震災との関連について申し述べたい。日本全国から寄せられる被災地への支援には頭が下がる思いである。また当面の課題として、被災地の復興が最優先であることは論を待たない。ただ、今後の日本の政治が復興と福祉に傾き、より内向きになっていくのではないかと懸念される。日本全体が震災に共鳴するのではなく、震災の影響を限定させ、あるいは日本の将来へのマイナスの影響を抑制する観点も必要なのではないか。今回の震災を日本の新たなダウン・トレンドへの始まりにしてはならない。その意味でも、われわれは東アジアへの関与を緩めるべきではないのである。
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