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2010-12-23 08:54

どこへ行った「21世紀の米軍」

川上 高司  拓殖大学教授
 米海兵隊は、アフガニスタンのカンダハルに戦車を投入することを決定した。意外なことだが、アフガニスタンに戦車が投入されたのは初めてである。アフガニスタンではハンビーなどの比較的軽量級の車両が使われてきた。ただし、これは地雷やIED(簡易路肩爆弾)には弱く、IEDによる米兵の犠牲者は一向に減少しない。そのため、米軍は米兵の生命を守ることを優先して、最近ではハンビーなどの軽車両の使用を禁止し、MRAP(対地雷対待ち伏せ攻撃に対抗できる重量防護車両)の使用に切り替えつつある。

 これはIEDなどの攻撃に強く、イラクでの使用を前提に開発された車両だ。重さは20トン、高さにいたってはアンテナを含めると3メートルにもなる大型重量車両である。これは確かにイラクでは効果的だった。都市部が発達していて、道路も立派だったからだ。イラクでは、MRAPが走る回ることができた。
 
 しかし、アフガニスタンでは山岳地帯が多く、村は谷間にある。MRAPは山道を走るようには設計されていないので、起伏のある道なき道を走るのには、重すぎて、大きすぎるのだ。アフガニスタン東部山岳地帯のある基地では、MRAPに乗ってパトロールできる地域は限られ、遠出は不可能となった。基地から離れた地域は「兵士が歩いて行く」か、「タリバンの支配にまかせる」しかない。だが、MRAPに乗らなければ基地を離れてはいけないことになっている。結局、米軍は、基地に籠もって基地周辺を固めるだけという硬直した戦いを強いられ、COINどころではなくなった。現地司令官は「ハンビーが使えたら。せめてどの車両を使うかの権限さえあれば」と嘆く。

 かつて、ラムズフェルド国防長官はハイテク・軽量で機動性に富んだ「21世紀の米軍」を目指した。それを21世紀初頭にアフガニスタン攻撃で実証してみせた。だれもが21世紀の米軍の姿を想像できた鮮やかな戦闘だった。10年近く経って、米軍は同じ場所でハイテク・重量・硬直型の戦争をしている。21世紀の米軍はどこへむかってトランスフォームしているのだろうか。
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