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2010-08-30 10:34
アメリカを二分する話題:モスク建設と同性婚の可否
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
久しぶりにアメリカを訪れて、先ず驚いたのが国内線の飛行機だ。チェックインした荷物であろうが、持ち込み手荷物であろうが、一個25ドルを徴収する、という仕組みだ。やれ自由競争だ、低運賃の過当競争(cut throat)だ、のあげくの果てに、乗客にツケを回している感なしとしない。入国審査もこの間までは指1本の指紋だったものが、5本全てになったり、写真を撮られたりと、安全チェックの厳しさと共に、ビジネスで余儀ない場合以外の訪米は忌避したくなるほどのプロセスだ。浮き世から隔絶された空間では、新聞とテレビが外界との唯一のチャンネルになる。その限りにおいては、細部にとらわれずにいまアメリカで何が問題になっているか、についての鳥瞰図を見て取るのには、格好の機会であったかもしれない。
8月中旬のアメリカのマスコミは、国内問題として2つのイシューのカバーに大半のエネルギーを費やしていたように見受けられた。その一つは、グラウンド・ゼロ、すなわち9.11で破壊された貿易センタービル跡地の近くにモスクを含むイスラム文化センターが建設されることの是非。もう一つは、同性婚あるいはその禁止の合憲性の問題だ。パキスタン洪水の惨状や、景気動向についての報道もあるにはあるが、トークショーや討論番組はこの2つのテーマが大半を占めていたといってよいだろう。
同性婚の方の話は、率直に言って世の中には他にもっと大事なことも沢山あるだろうに、なんで同性婚がそんなに重要なのか。性的嗜好をことさらにあげつらって差別の理由にするのはけしからんが、正面切って婚姻を認める認めないの議論にどれほど実益があるのか。といった漠然とした違和感は棄て難い。そういう発言自体差別に与している、という非難があるのかなあ。それに比べてモスク建設の方は、こんなにあったりまえのことが、なんでことさらに議論されねばならんのか、という感が強い。オバマ大統領は「米国憲法修正第一條(First Amendment)からして、信仰の自由は保障されるべきだ」と述べた後で、「具体的ケースについてのコメントは、大統領として適当ではない」とごく当然の意見を述べたのだが、これが権利擁護派、保守派双方から評判が悪く、批判されているという。筆者から見れば、異常事態だ。
もっとも保守派の論客でテレビに登場する中には「イスラム教徒はテロリストだ」「米国におけるモスクの建設は禁止すべきだ」なんていうすさまじいのがいる。ペイリンと同じで、一定の心情的同調者がいるから、こんなのに喋らせるのだろうが、「憲法で保証された信仰・言論の自由は、基本的な米国の価値観に賛同する人のみに与えられる」という、ひところの「赤狩り」に用いられた論理の再現まであり、米国におけるこの種考え方浸透の根深さが察しられた。テレビに出てくるコメンテーターに相当なのが多いのは、洋の東西を問わないようだ。
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