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2009-05-19 10:25
環境立国のために市場システムの導入を
武石 礼司
東京国際大学教授
「環境立国」を宣言している日本は、今後、資源量・供給量に制約があるモノに対し、市場メカニズムを利用して柔軟に対応する必要がある。そのためには、「二酸化炭素の排出量取引類似の制度」である「許可証取引制度」を広く導入することを提案したい。世界を見渡すと、欧米諸国を中心として、利用可能な量に制約がある水産資源や水資源、大気の汚染や土地の管理等、多くの分野において、利用量に上限(キャップと呼ぶ)を設定したあと、その割当量に余剰があれば売買を認め、利用者間での効率的な使用を促す多くの「許可証取引制度」が導入されている。
日本では、まだ資源管理にこの「許可証取引制度」を導入できていない。現在、試行段階として漸く二酸化炭素の排出量取引制度が始まった段階である。例えば、漁業において、農水省が特定の魚種のみに漁獲量の総量を設定しているが、漁獲の仕方は、オリンピック方式と言われる、ヨーイドンでの早い者勝ちの漁を認めてしまっている。漁業者は、不必要に大型で馬力が強い船を持たざるを得なくなっており、漁期以外は船が遊んでしまい、漁業者の借金の増大を招いている。
本年12月には、2013年以降のポスト京都の枠組みを決定するCOP15がデンマークで開催されるが、日本国内では、2020年における温室効果ガスの中期削減目標について、2005年比14%減とするか25%減とするか等、意見の相違が見られ、現在も議論が続いている。COPにおける交渉の経過と、特に会議における議事の進め方と決議の方式を分析してみると、逐条ごとの合意、反論が無ければ合意とみなすやり方が取られていることから、COP15で何らかの合意が生み出され、先進国に削減義務を負わせる結果となるのはほぼ間違いない。つまり、ポスト京都の枠組みにより、本年末にも、日本に一定程度の義務を負わせ、国民に経済的な負担を強いる削減量が設定さてしまうと考えられる。
政府は、国民に不可避の負担が生じることを逆にバネとし、既存の制度と組織を組み替え、新たな社会のあり方を模索し、産業が成長するビジョンを描くべきである。世界的に「グリーン産業化」がいよいよ趨勢となり、あらゆる産業が「環境産業」であるとみなされる低炭素社会に向かう以上、環境マネジメントシステム(ISO14000)の導入において企業・自治体等が組織全体を挙げて環境効率の向上に取り組んだ例に倣い、国を挙げた取り組みが必要となる。農水省、国土交通省、経済産業省等の実務担当の官庁は、環境問題を環境省の専管事項とすべきでなく、縦割り業務を見直し、資源量の制約に正面から向き合い、利用可能総量を設定して「許可証取引制度」を幅広く導入し、既存の非効率な制度を組み替えて、市場メカニズムが機能する分野を拡大すべきである。アジア地域における環境市場の育成・拡大は、日本が各種の資源量の制約に対し、率先して市場メカニズムを導入することで促進されると予測できる。
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