政策本会議

第104回政策本会議
「『米中覇権競争』第2幕:
トランプ関税政治の特徴とその行方」
メモ

2025年4月24日
東アジア共同体評議会(CEAC)事務局


報告のようす

第104回政策本会議は、寺田貴同志社大学教授を報告者に迎え、「『米中覇権競争』第2幕:トランプ関税政治の特徴とその行方」と題して、下記1.~6.の要領で開催された。


  1. 日 時:2025年4月24日(木)16時より17時30分まで
  2. 開催方法:日本国際フォーラム会議室にて対面およびZOOMウェビナーによる併用
  3. テーマ:「『米中覇権競争』第2幕:トランプ関税政治の特徴とその行方」
  4. 報告者:寺田貴同志社大学教授
  5. 出席者:61名
  6. 審議概要

(1)トランプ関税政治の枠組みと背景

トランプ関税政策は、単なる保護主義や選挙向けのパフォーマンスではない。「MAGAマスタープラン」と称される再産業化戦略の一環であり、産業自立、財政健全化、経済安全保障という三位一体の国家戦略に基づいている。理論的支柱はNEC(国家経済会議)のスティーブン・ミラン委員長であり、実務の中心はスコット・ベッセント財務長官が担う。ベッセントは、日本のアベノミクスに関心を寄せ、官邸主導型経済運営を称賛する論文を2年前に執筆している。関税収入は、トランプ減税(所得税減税)維持のために重要ととらえられており、単なる貿易摩擦対応を超えた構造的意義を持つ。

(2)関税政策の三重構造と段階的実施

トランプ関税の特徴は、①戦略産業の再建、②相互関税による交渉圧力、③財政収入の確保という三層構造にある。第一段階では株価の混乱や供給網の不安定化も「計算された混乱」として国民を納得させ、次なる交渉の布石とされる。自由貿易は「米国の最適な利益」を保証しないとする認識に立脚し、関税を通じて国際貿易制度そのものを再構築する試みともいえる。

(3)交渉プロセスとマー・アラゴ通貨協定

注目されるのが「マールアラーゴ通貨協定(Mar-a-Lago Accord)」である。ミラン委員長が掲げるこの構想は、準備通貨としてのドル機能を維持しながら、戦略的通貨協定を通じて関税引き下げ、安全保障提供、市場アクセスの条件を一つのパッケージとし、同盟国に受け入れを迫るシナリオを有している。関税を交渉の「入口」としつつ、ドル制度への再編参加を要求する「出口」まで含めた包括的戦略とも言え、日本の関税交渉中あるいはその後のアジェンダとしていずれ取り上げられる可能性も指摘できよう。

(4)国内の政治勢力と力学

トランプ関税政策は、特定の政治勢力の関与が強い。特に、国内財政規律を強く意識するいわゆる「ニューライト」派の意向が強く、先に述べたベッセント財務長官、ミランNEC委員長もこの範疇に含まれる。このグループはいずれも通商・通貨・軍事を結合させた経済国家戦略の推進を支持しており、関税が単なる経済手段にとどまらないことで、トランプ大統領の支持も高い。

(5)中国の対抗措置と戦略的応酬

トランプ関税の最大のターゲットである中国は、これに対抗し、経済・通貨の二正面で反撃を試みることが考えられる。特に、米機F35や原潜に不可欠なレアアースの輸出を制限することでアメリカにゆさぶりをかけており、防衛産業への打撃を避けたいアメリカは、すでに高関税からの引き下げを余儀なくされた。次に中国が仕掛けるとすれば、中国が大量に保持する米国債保有の使用かもしれない。つまり米国債の売却を通じて一気呵成のドル安へと誘導する可能性は、長きにわたりメディアが論じている。「米国のアキレス腱」とも称される、中国による米国債の大量売却の「カード」を中国が切るのかどうかより、トランプ政権の妥協が及ばない場合は、いつ切るかという問題を考えるべきであろう。

(6)主要国の対応と今後の分析課題

アメリカが相互関税に基づく交渉を日本を含む主要国間で進める中、その対応の選択肢として考えられるのがCPTPPである。EUはすでにCPTPPとの関係強化、その連携の可能性に言及し始めており、CPTPPそしてその拡大が米国の関税圧力に対抗する秩序枠として新たな意味を持ちつつある。つまりCPTPP拡大により、またはそのルールの広がりにより、トランプ関税の影響を受けない自由貿易圏を創出することが可能となろう。CPTPPの締結に指導力を発揮した日本は、トランプ関税交渉に関与しながらも、このCPTPPの拡大プランを推し進めることを世界の多くの国から期待されている。ただ、CPTPPに中国を含めるかどうかに関しては、トランプ関税交渉が妥結しなかった場合、さらに大きな課題として日本にのしかかるかもしれない。トランプ政権同様、中国の政治行動も透明性を欠き、習近平主席の個人的意向によるため、強い信頼をもって交渉できるないからだ。

(7)結論

上に述べたように、トランプ関税政治には、国際制度の再構築という同政権の戦略的意向が色濃く反映されているため、従来の米中覇権競争を新たな段階に進める可能性がある。つまり誰の通商規範や経済ルールがグローバルスタンダードになるのかの段階から、そのルール・規範が埋め込まれた国際制度の再設計の競争への進展である。日本が米中が参加しないCPTPPを自由貿易志向の有志国と共に、拡大、拡張に進めるできなのは、この競争からの負の影響から逃れられる「絶縁体」になるからだ。

以上
文責:事務局