政策本会議

第95回政策本会議
「ASEAN加盟をめぐる東ティモールの現状と課題」メモ

2023年4月21日
東アジア共同体評議会(CEAC)事務局


報告のようす

第95回政策本会議は、報告者:山田満早稲田大学社会科学総合学術院教授を報告者に迎え、「ASEAN加盟をめぐる東ティモールの現状と課題」と題して、下記1.~6.の要領で開催された。


  1. 1.日 時:2023年4月21日(金)14時より15時30分まで
  2. 2.開催方法:オンライン形式(ZOOMウェビナー)
  3. 3.テーマ:「ASEAN加盟をめぐる東ティモールの現状と課題」
  4. 4.報告者:山田 満 早稲田大学社会科学総合学術院教授
  5. 5.出席者:38名
  6. 6.審議概要

  山田満早稲田大学社会科学総合学術院教授から、次のとおり基調報告があった。

(1)東ティモールの国内政治状況

2022年4月19日に行われた大統領選挙の決選投票において、同国の国民的英雄であるシャナナ・グスマン氏の後押しなどを受け、ラモス・ホルタ氏が62.1%の得票を獲得して大統領に当選した。なお、ホルタ氏は2007~2012年にも大統領を経験している。ホルタ氏は、2022年5月20日にその就任式を兼ねて、21世紀最初の独立国家としての独立回復20周年記念式典を行った。
 東ティモールの国内政治は、東ティモール独立革命戦線(フレティリン)と東ティモール再建国民会議(CNRT)の対立が非常に強く、きたる5月の国民議会選挙に向けて激しく争っている。東ティモールの人口の51%は15歳から35歳が占めており有権者の中央値は若く、こうした層はそれらの政治的対立による政治の不安定について良くは思っていない。

(2)東ティモールの ASEAN 加盟に向けて

東ティモールは、早い段階からASEANの加盟を希望していた。今回大統領に就任したラモス・ホルタ氏は、ポルトガルが同地域の主権を放棄した1974年の時点で、東ティモールの独立とASEAN加盟を希求していたと述べている。実際に私も、2002年に東ティモールが独立した直後、多くの政府関係者から東ティモールの経済成長、安全保障の確保にはASEAN加盟が必須であるという主張を聞いたことがある。独立後の東ティモールは、2002年にポルトガル共同体(CPLP)加盟および国連に加盟、2005年にASEAN地域フォーラム(ARF)に加盟、2007年に東南アジア友好協力条約(TAC)に署名するなど国際社会に加わっていき、2011年にASEAN加盟を正式に申請した。その後も、2014年にCPLPサミットの主催、2016年にWTO加盟、2018年に核兵器禁止条約に署名・批准(2022年)を行い加盟の準備を進めて、昨年11月11日のASEANサミットにおいて、第11番目の加盟国として「原則」合意されたのである。
 ASEANの加盟には、ASEAN調整理事会(ACC)の推薦を受けたASEANサミットにおいて、加盟国の全会一致の採択が必要になる。今回の加盟に至るまで、東ティモールは2019年ごろからASEANの3つの共同体(政治安全保障、経済、社会文化)からの派遣を受けて、加盟の準備ができているかどうかなどの評価を受けて、それが前述のACCにあげられ、さらにサミットに推薦されたというプロセスを通ってきた。おそらく3つの共同体からは、東ティモールの石油・天然ガスの依存の高さと収入の低減傾向がASEANの将来の経済統合を阻害しないのかといった懸念とともに、東ティモールの加盟が地域に経済成長を生み出し、社会文化の発展に寄与するのかどうかという意義について評価を受けたものと考えられる。

(3)東ティモールのASEAN加盟に対する各国有識者と政府の反応

次に、ASEAN各国の有識者また政府は、東ティモールの加盟をどう評価しているのか。ASEAN地域の意識調査として頻繁に利用されているシンガポールのISEAS-Yusof Ishak Instituteのレポートによると、ASEAN全体の主に有識者の意識として、東ティモールの加盟に賛成したのは61.5%、反対は15.8%であった。ただし国別にみると、カンボジアでは93.3%、インドネシアでは67.8%が賛成しているが、ミャンマーでは27.8%のみが賛成と、国によって違いがでている。
 こうした傾向は政府レベルでも同様で、2022年のASEAN議長国を務めたカンボジアは、フンセン首相が東ティモールの加盟に積極的な支援を表明した。シンガポールは、東ティモールの加盟が各国との経済格差からASEANの経済発展の阻害要因になるのではと当初否定的な姿勢をみせていたが、その後は支持に傾いて、現在は加盟に向けた人的訓練を申し出るなどしている。インドネシアは、東ティモール独立後に、グスマン氏がすぐに同国との和解に動いていたことから友好関係を築き、現在も加盟を支持している。マレーシアもNGOを通じて東ティモールの英語人材教育の協力を申し出るなど、加盟を支持している。他方で、政府レベルでもミャンマーは否定的な立場をとっている。ミャンマーからすると、東ティモールが主張する「人権」や「民主主義」は内政干渉になるのであろう。ミャンマーは、現東ティモール大統領のラモス・ホルタ氏が2001年にアウンサンスーチー氏の軟禁解除の署名を行ったことなどに強い反発をみせ、その後の東ティモールのASEAN外相会議へのオブザーバー参加などに反対を行ってきたのである。
 このように、東ティモールの加盟にはミャンマーが反対しており、こうした影響に加え、上述の理由を踏まえて正式加盟に向けた「ロードマップ」が示されたことで、昨年のサミットでは「原則」加盟という状況になったといえる。

(4)今後の東ティモールについて

東ティモールの外交方針は、シャナナ・グスマン氏も述べていたが「敵も作らず、同盟にも参加しない」ということになる。中国は、東ティモールを一帯一路の重要な拠点として位置付けて同国に積極的に働きかけているが、東ティモールはオーストラリアの軍事的な重要基地でもあるダーウィンから僅か600キロの位置にある。東ティモールはこうした状況を十二分に理解しており、米中どちらか一辺倒に傾斜することを避けている。このような状況のため、東ティモールにとって、ASEANの中心性を提唱し、また多くの国際枠組みに参加しているASEANへの加盟は、安全保障上の重要な場所を提供してくれるものとなっている。東ティモールの経済は、コロナの影響で2022年は前年より8.6%も成長率が減退した。そのため一帯一路による中国からの経済支援、ASEAN経済共同体を通じて海外からの直接投資、市場統合などに期待や意欲をみせている。
 ASEAN加盟に関して、東ティモールは様々な課題を抱えている。一つ目は、石油・天然ガスへの依存から生まれる経済の停滞である。二つ目は、ASEAN加盟により年間250万ドルの運営費の負担が義務付けられることである。ASEANはEUと異なり、運営費はすべての加盟国が同額を払わなければいけない。他に何よりも大きな課題は人材不足である。ASEANでは年間750以上の会議が行われるが、果たしてそのような人材を確保できるのか。東ティモールの若者は海外、例えば韓国にこの10年近くで6000人以上の労働者が流出し、日本へも技能実習生が来日する。このような状況では、ASEANの各種会議への人材派遣が容易ではないだろう。また東ティモールはテトゥン語とポルトガル語を公用語としているが、ASEANの公用語である英語の教育が進んでいないことも課題となるだろう。

以上
文責:事務局