政策本会議

第78回政策本会議
「一連のASEAN関連首脳会議を終えて」メモ

2018年1月26日
東アジア共同体評議会事務局


宮本 哲二 外務省アジア大洋州局地域政策課長

 

昨年11月12~14日、マニラにおいてASEAN関連首脳会議(第20回日ASEAN首脳会議、第20回ASEAN+3首脳会議(APT)および第12回東アジア首脳会議(EAS))が開催されたことを受けて、第78回政策本会議は、これら一連の首脳会議に陪席した宮本哲二外務省アジア大洋州局地域政策課長を報告者としてお迎えし、「一連のASEAN関連首脳会議を終えて」と題し、下記1.~5.の要領で開催された。


  1. 1.日 時:2018年1月26日(金)午後2時より午後4時まで
  2. 2.場 所:日本国際フォーラム会議室
  3. 3.テーマ:「一連のASEAN関連首脳会議を終えて」
  4. 4.報告者:宮本 哲二  外務省アジア大洋州局地域政策課長
  5. 5.出席者:15名
  6. 6.審議概要

(1)冒頭、宮本哲二課長から、次のとおり基調報告があった。

(イ)一連のASEAN関連首脳会議の評価
 この度の一連のASEAN関連首脳会議は、ASEAN設立50周年の式典などもあり過密日程の中で進行されたが、議長国のフィリピンの采配は全体として、評価に値するものであった。他方、前代未聞であったのは、議長声明の発出が大きく遅れたことである。一昨年(前回)の首脳会議でも一日発出が遅れたが、今回は特に日ASEAN首脳会議の議長声明が、会議後2週間以上たってからようやくドラフトが出てくるような状況であった。またそもそも、EAS、APT、日ASEANの順番で、つまり後から開催された首脳会議から先に議長声明が発出されたという点も特徴的であった。
 他に特徴的であったのは、日本の存在感の高さである。安倍総理は今回で6回目の参加ということもあり、会期中、総理の周りをいつも各国関係者が取り囲んでいた。こうした点は報道では明らかにされていないことであるが、日本のプレゼンスの強さをよく表している現象であった。
 また、米国のトランプ大統領が、EASに出席せずに帰国してしまったことも特徴的であった。この点について、米国への否定的な報道が多くなされているが、一概にそのようにはいえないところがある。というのも、そもそも昨夏に米国側からだされていたトランプ大統領のアジア歴訪スケジュールには、フィリピン訪問は入っていなかったのであるが、そこを日本はじめ各国からの説得などによりフィリピンを訪問するように仕向けることができたという経緯がある。そして結果として参加しなかったのも、過密日程により一連の首脳会議のスケジュールが変更され、トランプ大統領が予定していた滞在スケジュールを越えてしまいそうになったためであった。またトランプ大統領自身は、EAS前の昼食会に参加して、EAS参加国の首脳のまえで随分と長いスピーチを行っており、実質上、EASに参加していたも同然の状況であったのである。

(ロ)一連の首脳会議において日本が重視した点
 一連の首脳会議において、日本が重視した点は、大きく分けて5つある。
一点目は、ASEAN50周年への祝意を表すことである。まず、昨年の8月8日、安倍総理よりASEAN10ヶ国に対して祝意のメッセージを送った。安倍政権においては、これまで多くの対ASEANに関する政策スピーチを行っていることから、今次首脳会議ではあらたな政策スピーチを行うことは控えたが、その代わり、通常日ASEAN首脳会議の冒頭にプレスを入れて2分程度行う総理のスピーチを10分程度に拡大して実施するなどの工夫を行った。
 二点目は北朝鮮と南シナ海をどう扱うかである。これまでの一連の首脳会議においては、北朝鮮に対して国家間で立場が異なることから、強い非難を行うことができなかった。しかしながら今次一連の首脳会議においては、参加したほぼ全ての首脳から北朝鮮に対する強い懸念が表明された。特に、EAS首脳会議の議長声明において、北朝鮮に対して「非難する」との文言を入れることができたことは画期的であった。また、APT首脳会議の議長声明で、これまであまり入れることのできなかった拉致に関する言及ができたことも大きな成果であった。南シナ海問題については、中ASEANの首脳会議で、南シナ海行動規範(COC)の交渉開始宣言が出されたことについて、ASEAN諸国は歓迎を示していた。ただし、南シナ海問題については、多くの課題が残っているといえよう。
 三点目は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の打ち出しである。会議において安倍総理より表明した同戦略は、総じて各国より歓迎され、日ASEAN議長声明でも言及された。今後日本は、インド太平洋地域の沿岸国の海洋安全保障能力分野の能力構築支援のために3年間で約550億円規模の支援を行う予定であり、また、フィリピン南部及びスールー・セルベス海の治安改善のため、2年間で150億円を支援することになっている。
 四点目は、日本が主導する地域協力の打ち出しである。今次会議で特に打ち出されたのは、「アジア健康構想」であり、これは高齢化社会に対応するために、アジア地域の介護産業などで就労する人材の国際循環などを目指す構想である。すでに国内の一部病院では同構想に関連した取り組みが始まっており、今後の更なる強化が期待されているところである。また、環境省が主導してきた「日ASEAN環境協力イニシアティブ」においては、日ASEAN統合基金(JAIF)の資金を活用して域内国の能力構築などを主導しはじめている。各国からは、こうしたイニシアティブに関して評価を受けるともに、それらの取り組みに関与する東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)についても評価を受けることができた。
 五点目は、ミャンマーのラカイン州の問題への扱いである。この問題に関して日本との関連では、日本とASEANの協力によって設立されたASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)による、人道支援への取り組みが大変評価された。
 以上が今次首脳会議で日本が重視してきた点である。このような一連の首脳会議においては、議長国との関係が非常に重要となる。その点、フィリピンのドゥテルテ大統領と安倍総理との良好な関係は、今次会合で日本外交を推進するにあたり、非常に有効となった。

(ハ)一連のASEAN関連首脳会議以後の課題
 次に、今次首脳会議以後のこの地域の課題について述べる。一つ目は、2018年は日ASEAN45周年を迎えることから、日ASEANのさらなる協力拡大をいかに成し遂げるかということである。特に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」のもと、海洋協力、連結性協力の強化が必要であろう。二つ目は、日ASEANセンターの改革である。これまで同センターが重視してきた日ASEAN間の貿易、投資、観光分野は、ここまで順調に拡大してきていることから、今後同センターに新たな付加価値を付けていくことが求められるだろう。三つ目は、日本・メコン地域諸国首脳会議への取り組みの強化である。毎年開催されている同会議は、3年に一度東京で開催しており、今年は東京開催の年にあたる。

(ニ)今後の東アジアの統合に向けて
 最後に、今後の東アジア統合に関して述べる。現在東アジアにおいては、ASEANの一体性への挑戦が起こっているといえる。というのも、南シナ海問題において、ASEAN各国が分断されるような状況にあり、ASEANが一体性をもってこの問題に対応できなくなってきている。今後、ASEANはこれまで維持してきた一体性のコンセンサスを維持できるのかが、東アジアの統合における課題となるだろう。経済においては、TPPとRCEPを自由貿易推進の観点からも進めることができるのかが重要である。これに関して現在中国は、「東アジア経済共同体」を進めようとしている。「東アジア経済共同体」が、TPPやRCEPなどとどのように関係していくのかによっては、この地域の経済統合における課題となるだろう。他に、日本としては、EASをプレミアフォーラムとして強化し、JAIFを活用するなどしてASEANとの協力を強化していくことが重要であろう。


(2)その後、出席議員と宮本課長の間で質疑応答を行ったが、注目すべき点のみ追記する。

 (イ)日本からのASEANへの支援について、既存の円借款では手続き上の時間がかかりすぎる。また、現在では円借款による支援の基準からはずれてしまっている国でも、実際にはまだまだ円借款の需要が高いという実態がある。対ASEAN外交の強化というのであれば、こうした実態にもとづいて、支援の新らしいスキームが必要であろう。
 (ロ)昨年は、ASEAN設立50周年の記念として東ティモールの加盟がなされると予想していたが、そのようにならなかった。東ティモールとインドネシアの関係は改善しているようであるので、今後の加盟が注視される。
 (ハ)日本はインド、オーストラリアと戦略的パートナーとしての関係を強化しているが、日本の国益上、米国との関係は常に緊密であらねばならない。今後、どのように米国をアジアに関与させるかが重要である。
 (ニ)今回の議論の範囲からははずれるが、今後日本はAPECの活用ももっと検討していくべきではないか。

以上
文責:事務局