国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-03-03 09:47

(連載)強い懸念呼ぶ麻生首相の対露アプローチ(2)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 新しいことを述べ、そのことで深刻な過ちを犯したのは、麻生首相の側だ。彼は会談後記者団に対して「向こうが2島、こちらが4島では進展しない。役人に任せているだけでは駄目。政治家が決断する以外、方法がない」と述べた。ロシア側が新たな具体策には一切触れていない時に、麻生首相は一方的に「新たなアプローチ」に言及した。つまり、4島返還要求というわが国の基本的な立場を、実際の交渉も始まっていない段階で自ら否定したのだ。事態をより深刻にしているのは、首相が犯した過ちの深刻さについて、彼自身が全く自覚していないことである。

 これに対し、ロシア側の立場は今でも、プーチン前大統領が述べた1956年の日ソ共同宣言(ロシア側の解釈は2島引き渡しで最終決着)を基礎にした解決が大前提となっている。ナルィシキン大統領府長官が12月に来日したとき、解決にあたっては「両極端を排して」と述べた。ロシアが極端な立場というときは、これまで常に4島返還論を指してきたが、2島論を指すことはあり得ない。つまり、ロシアが排すべきという両極端とは4島論と0島論である。麻生首相が期待して述べているように、2島論をロシア側が否定しようとしているのではない。ラブロフ外相も首脳会談の直前に「われわれの大統領は(これまで)いかなる紋切り型でない約束もしなかったし、できなかった」と述べ、「新たなアプローチ」に対する日本側の期待を、「いつもの誤解だ」と切り捨てた(インターファックス 2月17日)。

 大統領が「紋切り型でないアプローチ」という指示を出したあと、ロシアの専門家から「歯舞、色丹の引き渡し(日ソ共同宣言に基づく)と国後、択捉の共同開発」という案が日本の専門家に打診されたことがある。これがロシア側の言う「紋切り型でないアプローチ」の一例であるが、ロシア側の発想を典型的に示している。実際にはこの提案は、日本が資金を出せば共同宣言を実行しようという「2島マイナスα」論である。

 麻生首相は外相時代から、日露関係に言及する度に、一方的にわが国の基本的な立場を次々と自ら切り崩し、譲歩している。これに対して、ロシア側は、プーチン首相の日ソ共同宣言を基礎にした解決、つまり2島論から踏み出るような具体的な言質は一切与えていない。首相の問題点は、メドベージェフ大統領にとって、現在の客観的諸条件のなかで、プーチンの2島論を超える新アプローチは不可能だ、ということを理解していないことである。そして、根拠のない期待をもとに、一方的にわが国の立場を否定し、切り崩しているのだ。われわれは、このように根拠のない期待と幻想を抱いている麻生首相が、この春に大統領やプーチン首相と領土問題で話し合うことに、強い危惧の念を抱かざるを得ない。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会