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2009-03-02 18:56

(連載)強い懸念呼ぶ麻生首相の対露アプローチ(1)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 麻生首相とメドベージェフ大統領のサハリンでの首脳会談で、北方領土問題についても話し合われた。結論を言えば、首相の発言やアプローチには極めて深刻な問題がある、ということだ。5月にはプーチン首相を日本に迎えるとのことであるが、わが国首脳の対露政策には甚だ強い懸念を抱かざるを得ない。それについて述べる前に、サハリンの首脳会談に関するわが国のマスコミ報道が不正確なので、それについて触れておきたい。

 首脳会談について日本外務省は、「メドヴェージェフ大統領が指示を出した『新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ』での下で作業を行うことで、両首脳は一致した」と発表した。日本の各紙はこれを受けて、朝日新聞は「メドベージェフ大統領から北方領土問題の解決をめぐって新しい表現が飛び出した」と社説で述べ(2月19日)、読売新聞もやはり社説で「大統領は領土問題に関し『新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ』の下で作業を加速すると表明した」と述べている(2月19日)。政府の発表のありかたにも関係しているが、各紙の記事は明らかに事実と異なる。

 実際には大統領は会談の場では「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」ということは、一切述べていない。ロシア外務省の発表にもそれはない。日本外務省のブリーフィング・ペーパーは会談の具体的やりとりについて、以下のように述べている。「大統領が、領土問題でそれ以上の、本質的に新しい発言は何もしていないということは、ほぼ間違いない。麻生総理からは、メドヴェージェフ大統領が指示を出したような『新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ』の下で、帰属の問題の最終解決を目指していきたい旨述べた。これに対してメドヴェージェフ大統領は『この問題について双方に受け入れ可能な解決を見つける作業を継続する用意がある。この問題は世界にある他の問題と同じように解決可能と思っている』と述べた」と。

 つまり、独創的云々の言葉は麻生総理からの発言なのだ。彼がこのように述べた背景は、昨年11月メドベージェフ大統領が北方領土問題に関して「紋切り型でない(スタンダードでない)アプローチを」と言及したこと、またその後大統領がロシアの事務方に「紋切り型でない解決方法を模索せよ」との指示を出した、という情報が日本政府に伝わったことであろう。それを背景に麻生首相の側から、大統領が「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」を指示したとして、先のように述べたのだ。肝心な点は、メドベージェフ大統領は今回の会談で、新しいことも、新しい表現も、何も述べていないということである。また、それができる立場にもないということである。(つづく)
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