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2008-10-05 15:08

「普遍的価値」の拡大と日本の役割

福岡侑希  CSIS Jakarta客員研究員
 今回のバリ島でのNEAT年次総会の「政策提言」にて、「普遍的価値の追求」が強い抵抗もなく受け入れられたという。アジア地域内において、人権や民主主義といった価値観が、少しずつだが根付きつつある印象をうける。そうした「普遍的価値」のアジア地域おける具体的なあり方に関しては、今後一層の議論が求められる。しかし、アジア各国が「自由民主主義」の拡大を目指し、日本がその一助を担おうとするのであれば、その国際支援のあり方にも変化が求められるだろう。すなわち、従来の事務的、技術的な「選挙監視」を中心とした短期の民主化支援から、より「長期的」かつ「政治的」な支援へと、その支援の性質を変えていく必要がある。

 「自由民主主義」の充実のためには、定期的な選挙の実施といった「Formal」な手続きだけでなく、選挙期間「外」においても様々なチャンネルを通じた利益代表が必要となる。こうした「Substaitive」な側面における民主化が実現できなければ、選挙期間中の「公約」は無視され、本来「民主化」から利益を享受すべき社会的弱者の利益が軽視される結果になる。例えば、今回NEAT総会が開催されたインドネシアの場合、一般的に「民主化の主要な担い手」と見なされている社会勢力、例えば労働者階級、の利益が政策決定に反映されない状況が長く続いている。主要政党は、選挙キャンペーン中は労働者の生活改善を約束するものの、選挙後の政権樹立以降はその約束も反故にされ、労働者問題担当の政府機関も労働組合からの要望には極めて鈍感である。選挙期間外に彼らの利益を代弁しようとする有力な政治勢力も存在せず、その結果、歴代政権の労働者問題に対するプライオリティは極めて低くなっている。

 こうした現象は、「市民社会」と呼ばれる社会勢力の弱い多くの途上国(インドネシアに限られない)において、ある程度普遍的に観察できる現象といえよう。このような状況を改善し、社会的弱者が民主化の恩恵を受けられる環境を整えるためには、短期間の選挙監視を超えた、より長期的で包括的な民主化支援が求められる。また、その内容も事務的・技術的なものではなく、より「政治的」な効果を企図したものとなることが求められよう。「選挙=民主主義」という発想では不十分だろう。

 確かに、外交リソースや、特に内政干渉の問題といった諸制約の中で、「長期的」かつ「政治的」な民主化支援にも限界がある。その一方で、冷戦終結後における「主権」概念の変容を反映してか、欧米のドナーを中心に、選挙監視を超え支援対象国の政治に深く入りこんだ野心的な取り組みも多くなされてきている。そうした昨今の国際環境の変化の中で、日本も「自由民主主義」拡大の一翼を担おうというのであれば、民主化プロセスの「Formal」な側面への支援を超え、より「Substantive」な側面にも目を向けていく必要がある。
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