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2008-09-25 22:38

(連載)食品衛生問題と東アジア地域協力(1)

佐藤考一  桜美林大学教授
 昨年に続き中国で、農薬のメタミドホスの混入したギョーザや樹脂原料のメラミンの混入した牛乳などの食品衛生問題が発生し、9月22日には中国国家品質監督検査検疫総局の李長江局長(閣僚)が辞任した。さらに、乳幼児向けの乳製品が関わるメラミン混入食品については問題が大きいため、23日までに少なくともバングラディシュ、ブルネイ、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾が、粉ミルクやクリームなどの中国製食品の部分的な禁輸措置に踏み切った。皮肉な話であるが、逆説的に東アジア諸国間の「食」に関する連鎖と、安価な製品を提供する中国への依存の実態が証明された。

 食品衛生問題は、いうまでもなく、冷戦後に注目されるようになった非伝統的安全保障問題の一環である。ASEAN+3首脳会議や、東アジア首脳会議(EAS)などの東アジア協力の中で、これまで協議された非伝統的安全保障問題としては、麻薬対策、テロ対策、海賊対策、そして重症急性呼吸器症候群(SARS)や鳥インフルエンザ、エイズなどの感染症対策がある。これらの問題は、いずれもどこかの国の軍事行動が原因となる伝統的安全保障問題と違い、テロリスト、海賊、エスニック・マイノリティなどの非国家主体(食品衛生問題の場合は、製造業者や流通業者)やウイルス・病原菌などの自然現象が原因である。「犯人」の正体が、はじめからはっきりしていることはほとんどない。

 運輸・情報技術の発展で地域諸国の間の経済関係の緊密化が進み、ヒト・モノの交流が拡大・加速しているので、「犯人」がはっきりしない問題の封じ込めには、各国の専門機関相互の密接な協力と、迅速な情報交換が必要である。このため、麻薬・テロ・海賊などへの対策では各国の警察組織や海上保安機関の間でコンタクト・ポイントあるいはフォーカル・ポイントなどと呼ばれる相互の連絡先が作られ、リストが交換されると共に、情報交換のための共通のデータベースが作成されている。さらに、テロ対策東南アジア地域センター(SEACCT:クアラルンプール)、海賊情報共有センター(ReCAAP ISC:シンガポール)などが設立され、協力の機運を盛り上げ、実績を積み重ねている。SARSや鳥インフルエンザについては、各国にある世界保健機関(WHO)の事務所と、それぞれの国の医師たちの協力ネットワークが立ち上げられ、2003年のSARSの猛威を封じ込めるのに効果を挙げた。(つづく)
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