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2008-09-24 11:47

(連載)バンコクの熱い夏(2)

進藤榮一  筑波大学大学院名誉教授
 某月某日、泰日工業大学開学1周年を記念し、國際アジア共同体学会共催の2日間の国際会議を開催。日本から総勢20数名が、現地調査を兼ね参加する。同大学は、日本とタイの民間協力によって生まれた、ユニークな高騰教育機関だ。もともとアジア留学生事業に生涯をかけた穂積五一氏の設立したアジア文化会館が、設立構想の出発点となる。同会館で学んだタイの元留学生たちが、穂積の門下生たちと共に設立した日タイ経済交流協会を母体に、苦節30年をへて創設にこぎつけた大学だ。日本とアジアの関係のあるべき姿を指し示している。
 
 私たちが目指すべきは、戦前夢見た大東亜共栄圏では、もちろんない。戦後1980年代に雁行モデルが描いた、日本主導のアジア経済圏構想でもない。文化と教育の交流を通じ、経済社会的な相互依存と互恵関係の深化がつくる「一つのアジア」の構築ではないのか。そのかたちを、二日間の会議は確認し合った。そして泰日工業大学の歴史が、そのアジアの近未来を象徴している。

 某月某日、帰国後、タイ首相府前広場を、反サマック市民活動家や一般市民が占拠する報道が飛び込んでくる。タクシン前政権(サマック政権)派対反タクシン政権(野党市民)派の対立抗争が、再度の高揚を見せている。1980年代末に経済史家・中村正則(一橋大学)教授が打ち出した「2千ドルの壁と2万ドルの罠」という経済発展と政治発展の相互連関に関する一般モデルを想起する。国家は、1人当たりGDPが2千ドルに達した前後で、政治発展の壁にぶつかり、激しい民主化の波に洗われる。他方、2万ドルに達した段階で、政治発展の罠に陥り、停滞と政治的緊張の波に洗われる、とする発展モデルだ。物価水準を勘案するなら、さしずめ「3千ドルの壁と3万ドルの罠」というところだろう。

 その意味で、タイ・サマック政権辞任の混乱と市民運動の高揚は、逆説的だが、まさに「発展するタイ経済」躍動の表象である。かつて、1980年代韓国や、90年代台湾が直面し、乗り越えた「3千ドルの壁」を、いまタイが直面し、乗り越えつつある。バンコクの熱い夏は、おそらくマレーシアから、中国やインドネシアにまで、及ばざるをえないだろう。私たちに問われているのは、むしろバブル崩壊後の「出島景気」のうたかたの中で、いまだ「3万ドルの罠」から抜け出ることのできない、日本の歴史のアポリアである。(おわり)
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