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2008-07-05 19:31

投機資金の流入続く中国経済への不安

平石亮太  会社員
 中国政府は7月2日、投機資金の流入を抑制するための規制を強化すると発表した。中国はこれまでも厳格な為替管理を実施しているが、人民元の上昇に伴って、実際にはモノの取引を伴わない投機目的の資金が大量に流入しており、このままではインフレをますます加速させかねないとの懸念が広がっている。そこで、外貨収入が水増しされていないかを当局が取り締まる新たな仕組みを7月14日から導入することになったのである。

 これまで人民元については、為替相場が過小評価されており、それが欧米に対して膨大な貿易黒字を生み出す元凶だと批判され、G7などでもその切り上げが求められてきた。2005年6月までは1ドル=8.28元で固定してきたが、それ以降緩やかながらも切り上げを続け、2008年6月末時点では1ドル=6.86元となっている。こうした通貨高に伴って投機資金が流入してくる姿は、隣国のベトナムの姿と重なる。ベトナムではつい最近まで、通貨高を見込んだ投機資金が流入していたが、インフレ懸念を背景に投機資金が急激な形で流出に転じ、株価下落、通貨安が連鎖的に進んでいる。中国としては、投機資金の流入をいち早く抑制し、ベトナムの轍を踏まないようにしたいのであろう。

 しかし、中国が直面している問題はさほど簡単なものではない。これ以上の人民元の上昇を抑制しようとしても、為替介入で過剰流動性をますます増加させることになる。そうすれば、インフレをさらに加速させかねない。金融政策の自由度は大幅に狭められる。他方、人民元を適正水準まで切り上げるとしても、一気に行わなければ人民元の先高感から投機資金は次々と流入してくるであろうし、だからと言って大幅に切り上げると輸出産業に悪影響を与え、景気を失速させかねない。中国経済の先行きについては、今年の北京オリンピック、または2年後の上海万博以降にそれまでの景気過熱が調整局面を迎える可能性も指摘されている。そうした経済動向との兼ね合いも考えると、中国政府が取り得る政策の幅はきわめて狭く、その選択は非常に難しい状況にある。

 世界的な過剰流動性は、アメリカのサブプライム危機や食料・エネルギー価格の高騰など、各地で多くの深刻な事態をもたらしている。過熱を続ける中国経済でこれから何が起きるのか注意が必要な状況にある。1997年のアジア通貨危機の時とは状況に異なる点も多く、チェンマイ・イニシアティブをはじめとする取り組みも相当進展している。しかし、過剰流動性はその隙間をついてさまざまな「悪戯」を仕掛けてくる。相互依存が深まる中、中国経済の将来は我々にとっても決して他人事ではない。さまざまなシナリオを念頭に置きつつ、今後の動向を注視していかなければならない。
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