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2008-05-17 23:12

(連載)胡錦濤訪日の「円満成功」を検証する(3)

大江志伸  江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
 愛国主義強化に走り、中国国内の反日感情を際限なく肥大化させた江沢民路線の修正なしに、日中関係の真の未来がないことを、胡錦濤氏は早い段階から痛感していたとされる。胡錦濤政権の対日重視姿勢は、当面揺らぐことはないものの、新時代の幕開けを演出した今回の首脳外交の精神が、「嫌中」、「反日」に染まったそれぞれの国民感情にどこまで浸透するかがカギとなる。逆説的な視点となるが、「円満成功」の第3の要因となったのが、チベット問題である。チベットの抗議行動を武力で鎮圧するという事態が起きていなければ、かくも国際的関心を集めることはなく、「戦略的互恵関係」というキーワードの響きも空疎なものになっていたはずである。

 ところがチベット問題勃発により、国際社会から厳しい批判を浴びたことで、胡錦濤氏の訪日は、対外関係の回復と、北京五輪成功に向けた外交的反攻への重要な一歩となった。つまり、東隣の大国・日本の戦略的価値が、再認識される結果となったのである。日本においても、同様である。胡錦濤氏は訪日直前に、中国当局とダライ・ラマ側の協議再開にゴーサインを出した。日本政府は「ダライ・ラマ側との話し合いによる解決」を中国に働きかけてきた。結果的に、この対話開始は日本の功績となり、日本人自身、西隣の大国・中国との戦略的な関係を久方ぶりに実感することになった。

 「円満成功」第3の要因は、チベット問題の表面化という「偶然」に後押しされたことを忘れてはならない。それだけに、「円満成功」をより実体のあるものにするためには、冒頭で指摘したようにフォローアップが重要となる。とりわけ、解決に目処が立った、東シナ海のガス田問題の正式決着を急ぐべきである。「双方が同意できる案」が、両国の国民レベルでも受容されれば、環境問題や日本の国連常任理事国入りといった長期的な課題であっても、両国の環境は格段に改善されることになる。その段階に達して初めて、「アジア、ひいては世界から頼りにされる日中関係を一歩一歩築いていく」という福田首相の決意が視野に入ってくることになる。(おわり)
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