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2008-04-10 12:13

チベット問題をめぐる「大樹発言」の波紋

石川 良平  大学院生
 さる4月5日、関西テレビのローカル情報番組「ぶったま!」で、兵庫県姫路市の天台宗の書写山圓教寺の執事長大樹玄承氏が、今回のチベットにおける中国の武力行動をめぐって、明確にチベットを支持する文書を読み上げたことが、一部で話題を読んでいる。「ぶったま!」は生放送であるため、大樹氏の声明はそのままオンエアされたようである。ローカルな放映ではあったものの、昨今はインターネットのご時世であるから、その全文はおろか、その映像までが各種ウェブサイト上で自由に閲覧可能となっている。ご関心のある向きは、各種サーチ・エンジンで「ぶったま!大樹玄承」などと検索すれば、簡単にヒットするのでアクセスありたい。

 大樹氏の今回の行動がなぜ注目に値するかといえば、これはわが国の仏教界の有力者が、あえて中国仏教界、そしてその背後に控える「北京」が、眉をひそめるような内容を、公共の電波に乗せて表明したことが極めて異例だ、という一点に尽きる。たとえば大樹氏の声明には、「私たちはあくまでも宗教者、仏教者として、僧侶をはじめとするチベット人の苦しみをもはや黙って見過ごす事ができません」との一文が含められている。一般の日本人にとって、至極当然に受け入れられる内容といえるものの、これを「実名・顔出し」で日本の仏教界のしかるべき立場の人物が口にすることが、いかに勇気を要することかは知る人ぞ知ることである。

 「チベットの事件以来、3週間以上が過ぎてなお、日本の仏教会に目立った動きは見られません。中国仏教会が大切な友人であるなら、どうして何も言わない。しないで良いのでしょうか?」と、日本の仏教界の「鈍感さ」に対するいらだちも垣間見られる、今回の大樹氏の声明は、今のところインターネット上での波紋というかたちに留まっているが、今後同氏の行動がいかなる「公的」な波紋を呼ぶかに注目したい。「政教分離」は近代国家の原則であるとはいうものの、どの国においても「政治」と「宗教」はそう簡単には解きほぐせそうにはないしがらみを持っている。こと話が他国にまで及ぶ場合はなおさらである。

 仏教人としての信念に忠実になるか、あるいは国際政治のデリカシーの前に「慎重」になるか、という近代における宗教人の典型的ジレンマが、ここに明確に見て取れよう。今回の「大樹発言」について、同氏の宗教人としての誠実さの顕れと称賛するか、あるいは「政治的配慮に欠ける」と非難するか、議論は分かれるところであろうが、少なくとも、このあたりの問題をわが国の宗教人は久しく真剣に考えてこなかった、ということだけは言えるのではなかろうか。グローバル化時代における宗教人あるいは宗教界のあり方を考える上でも、今回の大樹氏の行動は貴重なケース・スタディーとなるはずである。

 
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