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2008-02-05 14:29

人民元対ドル相場の中期シナリオ

村瀬哲司  京都大学教授
 人民元の対ドル相場は、2007年を通じて6.9%上昇した(1ドル=年初7.8073元→年末7.3041元)。上昇スピードは当初年率5%程度だったものが、第4四半期には年率10%に加速した。さらに08年に入ると、1月末には7.20元を切る水準にまで切り上っており、これを単純に年率換算すると16%もの上昇率となる。人民元相場は、単純に一本調子で上っているわけではなく、日々の動きには方向と変動幅にかなりのぶれが見られる。三菱東京UFJ銀行の分析によれば、昨年10月と11月のドル・人民元相場(正確にはドルの対人民元相場)はドル・インデックス(ユーロ、円、ポンドなど主要6通貨に対するドルの名目実効相場)との間で、95%もの強い相関関係が見られたという。すなわち、ドルが主要国通貨に対し弱くなれば、人民元はドルに対して強くなる図式である。

 人民元の公式な相場制度は、2005年7月以来「通貨バスケットを参考にする管理変動相場制」である。しかし、07年夏までの人民元の動きは実質ドル・ペッグと見られてきたし、また国際通貨基金は2007年の加盟国の為替相場制度に関する報告書の中で、中国を米ドルに対するクローリング・ペッグ制(ドル・ペッグの一種)と分類している。一方、上述の通り、最近数ヶ月人民元は新たな動きを見せている。今後3年程度を展望して、人民元相場はどのように展開するだろうか。

 結論から言うと、公式レジーム「通貨バスケットを参考にする管理変動相場制」の色彩を強めることになるだろう。人民元は、ユーロ、円、アジア通貨との連関を徐々に強め、対ドルの上昇幅と変動幅は拡大していくだろう。人民元の実効相場(名目および実質)が漸進的に上昇する中で、対ドル相場は短期的には上下しつつも、傾向として切上げ基調を保つものと思われる。
 
 その理由としては、2点挙げることが出来る。第一は、中国経済の現況に鑑みて、政府が今年の経済基本政策を「経済成長の過熱と(構造的な物価上昇の)インフレ転化の防止」においていることである。かつてアジア開発銀行は、人民元を10%ずつ2年間切り上げる(計20%)と、2年目のGDPは3.9%、インフレ率は2.4%押し下げられる効果があると試算したことがある。第二に、人民銀行は1月初めの工作会議において、人民元の為替レートの弾力性を引続き増大するとして、「実効為替レートの変化を重視し・・・物価上昇の抑制における為替レートの役割をさらに発揮」させる方針を明示した。実効為替レートの重視とは、通貨バスケットを参考にして相場を管理することに他ならない。

 なお、中期的に人民元相場がまったく市場の需給に委ねられる自由変動相場制に移行することは考えられないだろう。金融当局は、為替相場の管理能力、対外取引への統制能力を手放そうとしないだろうし、また、中国の外国為替市場が市場参入者を限定する閉鎖市場として構築されているからである。
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