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2007-12-10 11:18

アセアン40周年と「第二の福田ドクトリン」の展望 

進藤榮一  筑波大学大学院名誉教授、国際アジア共同体学会代表
 人間の年でいえば40歳。論語で言う「不惑の年」をアセアン(東南アジア諸国連合)は迎えた。1967年創立から30年目の97年、「而立の年」にアセアンは通貨危機の嵐に襲われたけれども、十年の歳月をへて「アセアン共同体」の歩みを固めた。今年1月フィリッピン・セブの首脳会議でアセアン10カ国は、当初目標を5年前倒して、2015年に地域共同体を完成させることに合意し、併せて加盟国の行動準則を示すアセアン憲章を、この11月シンガポールの首脳会議で制定することに合意した。10年後の2017年、「知命の年」までにアセアンは、かつてのEC(欧州共同体)と同じような地域共同体として登場し、日中韓三国を加えて東アジア共同体構築へと歴史を進めるだろう。

 しかし、そのアセアン発展史の原点とも言うべき30年前、1977年夏、当時の福田赳夫首相が東南アジア歴訪の旅で発出したいわゆる福田ドクトリンが、アセアン「育ての親」となっていた歴史に、私たちはあまりに無知であるのではなかろうか。そのために、戦後外交の転換点としての福田ドクトリンを十分評価できず、その貴重な外交遺産を、21世紀アジア外交の教訓とすることができずにいる。福田ドクトリンは3つの原則からなる。(1)経済大国日本は、けっして軍事大国を志向せず、平和国家に徹する(2)アジア外交を進めるのに日本は、「心と心」の関係をつくり、そのために人材交流や留学生制度を強める(3)アセアンの連帯と強靭性の強化に支援協力し、そのためにODA(政府開発援助)の5年間倍増計画を実現する。

 これによって福田氏は、当時くすぶり続けていた反日運動の火種を絶った。東南アジアからの留学生支援制度を戦後はじめてつくり、技術育成とともにインフラ投資を進め、アセアン工業化への離陸の内発的条件をつくったのである。軍事力によるハードパワーではなく、教育文化や技術支援によるソフトパワー外交のエキスだ。しかも福田氏は同時に、日米関係を軸にすえながらも、対ソ、対中との「全方位外交」を展開し、党内台湾派を抑えて78年、日中平和友好条約締結にこぎ着けた。そこに私たちは、占領期以来の安保による日米基軸外交から、アジア志向の多元主義的外交への転換の始まりを見ることができる。

 以後、日本のアセアン向けODAは5年毎に倍々ゲームで増え、77年から89年(16億8千万ドル)と6.5倍増し、その3割を技術支援に投じた。日アセアン間の貿易総額は、77年から89年(617億ドル)へと4倍増し、韓国、台湾、香港とともにアセアンは着実に経済成長した。それら東アジアの新興国家群が日本経済の活性化を生み支えて、中国の急成長を促した。そして情報革命による域内生産ネットワーク化が進展し、東アジア域内の貿易存度はほぼ6割に達し、80年代EC諸国家間のそれに近似し始めたのである。不惑の年に入ったアセアンは今日、タイ軍政やミャンマー内紛などの域内問題を抱えつつも、東アジア共同体構築の運転者の役割をいっそう強めている。その意味でいま「第二の福田政権」に求められるのは、アセアンの政治的成熟を引き出し、日中関係のいっそうの緊密化をはかり東アジア地域統合を進める「第二の福田ドクトリン」の発出ではある。ソフトパワーによる日本のアジア外交への大胆な展開が切望される所以である。(『信濃毎日新聞』2007年11月5日掲載拙稿に加筆修正)
 
 すでに本掲示板でお知らせしていますように、来る12月15日(土)午後1時から5時まで、国際文化会館で、「福田ドクトリン30周年記念シンポジウム」(国際アジア共同体学会、毎日新聞社、共同主催)が、開催されます。第1部は、「外交当時者が語る福田ドクトリン」と副題をし、須藤季夫・南山大学教授による問題提起のあと、中江要介元中国大使、枝村純郎元ロシア大使、赤尾信敏元タイ大使が基調報告をされます。そのあと、山影進・東大教授、佐藤正文・日タイ経済協力協会専務理事、寺田貴・早大准教授が、共同討議に入ります。第2部は、「戦後日本政治と平和外交」と題し、波多野澄雄・筑波大教授らの司会、水戸考道・香港中文大学教授の基調講演のあと、パネルディスカッションに入ります。座席数に限りがありますので、希望者は至急、国際アジア共同体学会事務局(ahayashi@soka.ac.jp)宛に、メールで、住所、所属,年齢、連絡先電話・メールを明記の上、至急お申し込みください。
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