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2007-11-16 05:28

第5回東アジアフォ-ラムで聞いたいくつかの注目される発言

石垣泰司  東海大学法科大学院非常勤教授
  11月1日東京で開催された第5回「東アジア・フォ-ラム(EAF)」は、東アジア地域における投資促進および環境問題の二つの具体的テーマを中心に活発な討議が行われ、私が日本側関係者の一人として出席した2年前の北京での第3回会議に比しても、決して遜色のないものであった。もとより「東アジア・フォーラム」は、産官学3者構成のユニークな会議ではあるが、「東アジア・シンクタンク・ネットワーク(NEAT)」と異なり、東アジア地域内でしっかりした組織基盤を有すものではなく、その年次会合がいつまで続くかは、開催を引き受けるASEAN+3の政府が各年見つかるかどうかに依存するといった心細い状況下にある。上記北京会議では、閉幕時次回開催国を発表できなかったのに対し、今回の東京会議では、最終日にラオス政府が次回会合を開催する用意ある旨表明したので、まずまずの締めくくりとなった。今次会議でも、討論自体は、決して華々しい論議が展開されたり、政策提言が採択されたりするといったことなく、いたって地味な会議であったが、東アジア共同体に向けて重要と考えられる地域構成国間の対話の積み上げという観点からは、結構意味ある意見交換が行われたのではないかと考える。以下に、そのいくつかを紹介してみたい。

  とりわけ秀逸であったのは、開会セッションで基調演説者の一人として登壇したシンガポールのビラハリ・コーシカン第2外務次官の率直なスピ-チで、東アジア共同体構築に向けた現下の地域情勢について微妙な点を含め見事な分析を披露していた。印象に残った2点のみあげれば、第1に「東アジア地域における共同体構築の努力は、まだ初期段階にあり、関係諸国は、同床異夢を見ており、統合の目標についての相違点は、単にASEAN+3の13カ国とするか、あるいは東アジア・サミット参加の16カ国とするかといった二者択一の単純なものではなく、地域のどの国も現時点での一応のプレファレンスは有しているものの、最終的目標については全く描ききれずにおり、この地域の複雑性にかんがみ、どのような選択肢も閉ざさずオープンにしておきたいと考えている」との発言。第2に、最近誰も触れたがらない本地域と米国との関係にもきちんと触れ、「第2次大戦以後の東アジアは、いわば米国がつくったようなものであり(largely an American construct)、各国がそれを公に認めようと認めまいと、これまで東アジア地域の経済成長と安定を可能にし、現在もこれを支えているのは、米国のプレゼンスであるということは、地域内の誰しも知っていることである。従って、東アジア地域には今後とも米国のプレゼンスが必要不可欠であるが、しかし、それがあれば万能といった時代はもはや去り、共同体構築といったより広汎な努力によって補強することが益々重要となった。であるから、われわれとしては、米国が東アジア地域の共同体構築に向けての動きに対し、より真剣に向き合い、これが米国の利益に反するものではないことを認識してもらう必要がある」と述べていた。

  上記のほか、投資問題のセッションにおいて、壇上のインドネシア経済人のパネリストがフロアの日本人参加者からの地域内の投資に絡んだ腐敗問題への対処の仕方についての質問に答えた際、自分の左右に中国人座長と中国人パネリストがいるのもものともせず、「皆さんご承知の通り、中国では汚職があれば死罪が宣告され、直ちに処刑されてしまうが、他の国ではそのようなことはできず、腐敗への対処は困難な問題である」と述べていたところ、ASEAN+3間の対話の率直さも一段と深まっていく姿をまざまざとみるような気がした。

  さらに、今回の会合でも東アジア共同体構築に向けてのプロセスではASEANの役割が重要で、ASEANは機関車(エンジン)であるとか、運転席(ドライビング・シート)にいるとか、駆動力(ドライビング・フォース)であるといった言葉がしきりに飛び交っていたが、今回の中国代表団団長のJi Peiding全国人民会議外交委員会副委員長が「東アジア共同体は、ASEAN共同体構築の延長線上にあり、その意味でASEANの「指導的役割」(the leading role of ASEAN in this process )を支持するものである」と述べ、ASEANを一段と持ち上げていたのには、多少驚きを禁じ得ず、中国の外交辞令も極まれりと感じた。これは、とりもなおさず、中国が東アジア共同体構築には主体的に取り組む用意がなく、ASEANに任せておけば良いということといわば同義であり、東アジア共同体については、実際上中国は余り真剣ではないということを含意すると解釈することは穿ちすぎであろうか。
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