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2007-11-13 09:59

東北アジアにおける国際協力の可能性

滝田賢治  中央大学教授
 延辺朝鮮族自治州に滞在中、2日間かけて豆満江沿いに中朝国境地帯約150キロを間近に見てきた。豆満港やや上流の中朝露国境――1938年夏、日ソ間で発生した張鼓峰事件(草沙峰事件ともいうが、実際は双子山のような2つの小高い丘で戦われたので張鼓峰・草沙峰事件と言うべきであろう)の現場の近く――から白金まで長白山脈を左手に見ながら眼と鼻の先に見た北朝鮮国境地帯の雰囲気は、日本のメディアが映像を通じて伝えるものとはかなり異なるものであった。日本のメディアは多くの場合、この中朝国境地帯を脱北者を取り締まるため中朝両軍が厳しくコントロールする緊張に満ちた場所として印象づけるが、実際には極めて長閑な地域であった。

 中国から見える地域は長閑に見えるように演出しているのだという見方も可能であろうが、延辺大学教授たちの教え子である何人もの人民解放軍の中堅幹部達は――昨年の核実験以降、武装警察に代わり人民解放軍が国境監視にあたっている――北朝鮮側には半地下の監視所のようなものがあり、常時パトロールはしているようであるが、普段から長閑な場所であると証言していた。日本のメディアは、豆満江も冬に凍結すると脱北者が数多く渡ってくると伝えてきたが、凍結しなくても渡ろうとすれば渡れるほど水量の少ない,流れの緩やかな河川であり、事実とはかなり異なる。

 1980年代国連開発計画(UNDP)はこの豆満江河口地帯を国際自由貿易港とする計画を立て、日本を含め近隣諸国の開発への熱気が高まったが、第一次朝鮮半島危機によって頓挫し、今日に至っている。北朝鮮が核の無能力化第2段階を履行に移すかどうかにもよるが、仮に履行し始めれば、日本は国連とともに幻と終わった豆満港開発に積極的に関っていく準備を、今から開始すべきであろう。東アジア共同体――それが東アジアにおける様々な分野での国際協力レジームの重層的な枠組みであるにせよ――は、現実にはASEANをハブ(hub)とし日中韓という北東アジア3国がスポーク(spoke)となって形成されつつあるが、ASEANに比べはるかに経済力の高いこれら東北アジア地域が、この豆満港開発という「実利」によって協力体制を漸進的に強め、その過程で北朝鮮社会に変化を起こさせる「急がば回れ」方式を採用する準備をするべきであろう。
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