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2020-03-20 11:04

(連載1)新型コロナウイルスを巡りぶり返す日韓対立

斎藤 直樹 山梨県立大学教授
 武漢市を発信源とするとされる新型コロナウイルスが猛威を振るう中で、世界のどの国も同ウイルスの防疫に追われている。3月中旬までに同ウイルスの感染の中心地は欧州に移った感がある。ほんの少し前まで同ウイルスの感染の中心地が北東アジアであったことを踏まえると、同ウイルスの感染拡大の速度と規模に率直に驚かざるをえない。本稿は同ウイルスの防疫措置を巡り再びぎくしゃくしだした日韓関係と激しい駆け引きを続ける南北関係に焦点を当てる。中国内で新型コロナウイルスが猛威を振い出した中で、危機感を抱いた金正恩朝鮮労働委員長は一早く動いた。1月24日に北朝鮮が中国との国境を閉鎖する行動をとったことは北朝鮮の医療体制の不備を自覚した金正恩が北朝鮮へのウイルスの感染の可能性にいかに脅威を感じたかを物語った。これと対照的に中国からの入国制限に寛容であったのは日本と韓国であった。習近平国家主席による4月の公式訪問を控えていたこともあり、中国からの旅行者の入国を制限することにより、習近平の機嫌を損ねるような措置を講ずることを安倍首相が躊躇していた節があった。また文在寅大統領も習近平の今春の訪韓を実現すべく習近平の機嫌を損ねたくなかった感がある。そのためか、中国からの入国者の制限に日韓両国とも消極的であった。日韓両政府とも習近平指導部にあたかも忖度しているような印象を与えざるをえなかった。
 
 世界の多くの国が2月上旬に中国全土からの入国制限に踏み切る中で、安倍内閣は2月1日に武漢市の位置する湖北省から入国を制限したのに続き、13日から浙江省から入国を制限したものの、それ以外の地方からの入国を制限しなかった。後述のとおり、3月5日に中国全土からの入国制限に安倍首相が言及するまで多数の中国人が日本に入国していた。このことが日本国内の感染者の増大につながったことは事実であろう。同様に、文在寅政権は日本以上にウイルス感染拡大のリスクを冒してしまった。この結果、韓国内の3月12日の段階で韓国の感染者数は7700人を上回ったとされる。この間、桁外れの感染者数の激増を封じ込めるべく習近平指導部が武漢市を封鎖したことに始まり、それ以外の地域への感染拡散を阻止すべく中国内で移動を厳しく制限した。さらに感染者が増え始めた日本や韓国から感染が中国内へ逆流入することを恐れ、両国からの入国に制限を習近平指導部は加えた。これに対し、中国からの入国者に必ずしも厳しい制限を課さなかったわが国と韓国で感染者数の増大というまさかの事態を引き起こしたのである。
 
 新型コロナウイルスの感染者数が韓国で急速に拡大したことは何とも皮肉な現状を物語った。韓国のウイルスの検査体制は先進的であるとみられる。このことは韓国のPCRの検査数をみれば、一目瞭然であろう。このことも手伝い、韓国での感染者数の爆発的な拡大が日々進行している。検査体制の充実ぶりに対し感染者に対する医療体制が追い付いているのか疑問が生じないわけではない。同ウイルスによる肺炎のため亡くなる人の数も3月12日の段階で60人を超えた。他方、韓国人の入国に制限を習近平指導部が行った結果、3月7日の段階で800人以上の韓国人が中国で隔離されている状態にあるとされる。にもかかわらず、文在寅政権は現在まで中国からの入国制限を行っていない。この間、韓国内の感染者数の拡大に危機感を抱いた各国政府は韓国人の入国に対し制限を加え始めた。その数はついに100ヵ国以上に及んだ。

 こうした中で3月5日に行われたのが安倍首相による中韓両国からの入国者の規制であった。同日、安倍首相は習近平による公式訪問の延期を伝えると共に、9日からの中国からの入国制限を発表した。しかも中国からの入国制限だけでなく韓国からの入国制限にも言及した。この結果、9日から両国からの入国者を指定箇所に2週間待機することに加え、発行済みの査証の効力を停止することが決まった。各国が中韓からの入国に規制を加える状況の下で、特段、安倍内閣の決定が突出したわけではない。これに対し、習近平指導部は一定の理解を示したとされる一方、入国制限に文在寅は怒りと不満を爆発させた。韓国外務省は6日に「日本に防疫以外の意図があるのではと疑わざるを得ない」と日本政府の決定に対し反発した。続いて、康京和(カン・ギョンファ)外相が同日、富田浩司・駐韓日本大使を呼び出し猛抗議した。「日本政府がこうした不当な措置を取って協議や事前通報もなく措置を取ったことに対し、慨嘆を禁じ得ない」とし、「わが政府が新型コロナウイルス感染症拡大遮断の成果を見せている時点に取られたという点で非常に不適切であり、背景に疑問が生じるしかない」と、康京和は痛烈に叱責した。文在寅政権は日本への対抗措置として9日から日本に対する査証免除ならびに発行済みの査証の効力停止に踏み切ることを明らかにした。(つづく)
 
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