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2019-05-27 07:58

皇室外交および対ロシア外交について考える

中山 太郎 非営利団体非常勤職員
 ジャーナリストの西川恵氏の新刊『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』は、幅広く取材された労作だ。中東の王室が、ふつうは大使などには面会しないところ、日本大使に対しては皇室を尊敬しているからとしてあってくれる。その他、がんに侵され死期まじかだったフランスのミッテラン大統領の平成天皇ご夫妻への誠心誠意のもてなし、高円宮久子妃に対してのロシア側の盛大な歓迎など、印象に残る逸話が多々記載されている。

 対ロシアとの関係で、戦前は皇室同士の密なる交流があったことなどが、詳しく描かれている。また外交の場面で、女性の存在がその優しさや優雅などの観点からもいかに大事かも色々教えられる。普段は揶揄の対象になりがちな外交官の仕事についても、こうした交流の下支えとして如何に地道に勤勉に活動しているかも取材されている。外交における女性の存在の重要性については、知人の中国人知識人が、普段は習近平の独断的な外交に批判的であるが、その外交を少し和らげているのが習近平夫人で、その言動にトランプもプーチンもファンだと述べていたのを思い出す。わが日本は、皇室外交という、他にはない優れた外交カードを持つことを改めて感謝したい。

 現在、安倍政権は、対ロシア外交で北方領土問題をめぐりデッドロックにあると批判されている。平和条約締結も雲行きが怪しくなっていると言う向きもある。ここで思い出されるのは、福田政権が日中平和友好条約締結までの道のりで如何に苦労したかである。外交文書公開の30年ルールの下、今、色々な文書が閲覧できる。71年のニクソン大統領の突然の訪中は、いわば日本へのだまし討ちのような側面もあった。佐藤政権を継いだ田中政権は、それへの反発などから促成で国交樹立にこぎつけ、当時の日本世論も賛成した。その後、三木政権をついで、対中外交の主軸となる平和条約締結の仕事を任された福田政権は、慎重にきめ細かく対応した。当時、重要な争点として挙げられたのが、「反覇権条項」であり、当時の中国の立場である最大の敵ソ連を睨んでの中国特有の戦略的見地からの条項であった。前内閣で、この条項の挿入は既に日中間で約束済みで、撤回はできない中での談判だった。日本国内には平和条約締結慎重論も強かった。

 一方、お騒がせ中国は、こうした交渉たけなわの時に突如尖閣諸島領海に百数十隻の漁船を出没させ、2週間も居続けさせたりした。言論の自由のない中国の事情からその真相は不明だが、当時の政権の主導権を握る鄧小平への反対派の嫌がらせだとか、いやいや、これは老獪な鄧小平が日本側を揺さぶるためにやったとか色々言われている。こうした中、福田は、国内の分裂を極力抑え、「反覇権条項」の中身も薄め、ソ連への仁義も水面下で切り締結にこぎつけた。ある米側専門家に言わせると、日本は最大の利益を中国から吸い上げたことにつながった。外交にイフは禁物だが、佐藤総理は後継として、福田を当てたかったといわれるし、そうした発言メモも出てきている。戦前の日本外交が対ロシアとの外交をいかに重要視していたかを知るにつけ、地政学的にも日本にとりいかに大事かが益々再認識されている中で、安倍外交が領土問題解決に一足飛びに成功しなくとも、ロシアの関係を敵対関係にならないよう、将来の交流増進に向け、日本ロシア間の環境作りに励むことを期待したい。
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