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2018-12-29 21:42

パリ協定が無視する酸素増加策

倉西 雅子  政治学者
 ‘地球温暖化対策と言えばイコール二酸化炭素削減’とするイメージは、同問題が提起されて以来、すっかり染みついております。先日、COP24で採択されたパリ協定の運営に関するルールの内容を見ましても、‘削減目標’、‘削減量’、‘削減期間’など、‘削減’の二文字が散りばめられています。しかしながら、地球温暖化を防ぐ方策は、二酸化炭素の排出量削減だけではないはずです(なお、地球温暖化、あるいは、異常気象の原因は、科学的には人類の産業活動に伴う二酸化炭素の排出であると確定されているわけではない…)。

 それでは、二酸化炭素の削減の他に、どのような方法があるのでしょうか。仮に、気候変動の最大の要因が二酸化炭素の増加にあるとしますと、森林面積を増やすことも、これらの問題を解決するための有効な手段となるはずです。植物は、光合成の過程にあって二酸化炭素を吸収すると共に空気中に酸素を供給します。森林面積を拡大することは、空気中の二酸化炭素濃度を下げると同時に酸素を供給するのですから、いわば、バランスを回復すための一石二鳥の方策なのです。ところが、何故か、国際社会も何れの国も、森林の役割に対して強い関心を払っておりません。例えば、日本国内でも、再生エネは地球に優しいとして太陽光発電の普及が促進されていますが、地球温暖化防止の掛け声と森林の維持・拡大とは必ずしもリンケージされておらず、メガソーラの建設用地として全国各地の森林が伐採されているのが現状です。パリ協定のルールにあっても、先進国の途上国に対する財政支援を定めているものの、これらの諸国に対して森林保護を義務付ける規定は設けられてはいないようなのです。

 近年、ブラジルの熱帯雨林の急速な伐採が気候に与える影響が懸念されておりますが、一つ間違えますと、途上国に対する財政支援がさらなる森林の開拓を招き、干ばつや砂漠化といった異常気象を加速させかねません。中国に至っては、産業活動に伴って二酸化炭素の排出量を増やすのみならず、国土の砂漠化を放置したため、二酸化炭素の吸収力も低下させています。古代文明の地が何れも衰退して砂漠化したのも、暖房設備など人々が快適な文明生活を維持するために、森林の木を切り倒したためとする有力な説もあります。

 自然の保護こそ気候変動に対する有効策であるならば、国際社会は率先して森林の維持や植林に積極的に努めるべきと言えましょう。海外で削減した分を自国の削減分として加算する「市場メカニズム」のルールについては引き続き議論を続けるそうですが(競争メカニズムが働くわけではないので、‘市場メカニズム’という表現には疑問はある…)、二酸化炭素の削減量のかわりに、同量分の二酸化炭素を酸素に変換できる森林面積の維持や植林事業を加算するといった方法もあるはずです。二酸化炭素の削減から酸素の増加へと発想を転換しませんと、地球温暖化対策は、偽善や矛盾に満ちた財政移転のシステムに堕しかねないと思うのです。
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