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2018-09-17 08:27

(連載2)中国の対米外交に出口戦略はあるか

牛島 薫 非営利団体職員
 ところが、いざ課税が決定した際、幣原がブライス子爵にどう対応するのかを尋ねたところ「もう抗議はしない。放っておく」との答えが返ってきたのである。曰く「英国は、米国と戦争をしないのが国是である。徹底的に抗議すれば戦争に発展せざるを得ないが、英国は運河通行税で戦争をするつもりはない。ゆえに抗議はもう一切しないのである」と。さらにブライスは、「日本は排日移民法でも抗議をしているようだが、その問題のために米国と戦争をする覚悟はあるのか。ないのならばもう日本も抗議をするのはやめたほうがいい」と続けたという。



 つまり当時の英国は、ある種の忍耐を通じて米国との友好関係を保ち、第一次世界大戦、第二次世界大戦ともに米国の同盟国として勝者の側に立った。それに対し日本はずるずると日米融和の機会を逸し、最終的に米国を敵にまわし、戦争に突入するに至った。どう控えめにみても、日本に米国との戦争で勝てる算段はなかった。この点、現在の中国はどうだろうか。大日本帝国とは違い、中国に米国に打ち勝つ算段があるというのであれば話は別だが、常識的に考えれば、中国はこのエピソードの英国の対応ぶりから学ぶべきではないだろうか。ちなみに、ブライス子爵は、幣原喜重郎にこうも語っている。「過去にも米国は外国に対して相当不当な取扱をしてきたが、他方で外国からの抗議とか請求とかによらず米国人自身の発意で修正してきた。日本はじっとその時期を待つべきだ」。事実、第一次世界大戦後、米国はこの不公正な運河通行税を自発的に廃止している。



 最近でも日本は、中国が現在経験しているような米国との経済的な対立を何度も経験している。だが、貿易「摩擦」といわれることこそあれ、貿易「戦争」と呼ばれることはなかった。それは、日本に選択の余地があったかは別として、ブライス子爵の助言の通り徹底的に抗うことはせず発展的な関係を維持してきたからである。つまるところ、中国は、この貿易戦争が単なる「喧嘩」で済んでいるうちに、矛をいかに収めるかを考え始めるべきである。習近平政権として米国の外圧に屈するかたちで事態を収束させることは、政権のメンツにかけてあり得ないかもしれない。また、英国や現在の日本は米国と同盟関係にあるが、中国はそうした関係にはない、という違いもある。とはいえ、後戻りできない段階に至ってから、アメリカに無謀な挑発のような振る舞いをすることになれば、その先に中華民族の偉大な復興は存在しうるのだろうか。



 北京政府には果断な出口戦略にかじを切ってほしいものである。まずは「保護主義に反対し自由貿易を守る」と口だけでいうのではなく、WTO加盟国の義務を誠実に履行し自由貿易体制の旗振り役を全うすべく努力してはどうだろうか。改革には痛みが伴うであろうが、行動で示せば国際社会もやがて中国に理解を示し、米国としても何らかの着地点を探すようになるのではないだろうか。(おわり)
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