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2018-08-08 15:07

米国への貿易報復は中国大衆の胃袋に跳ね返る 

田村  秀男  ジャーナリスト
 広東料理など、中国庶民の大好物といえば、鶏の足や豚の胃袋。筆者にとっても、とりわけ鶏足はグロテスクな見かけと違って、香辛料で味付けされるとゼラチン状になって、舌がとろける。それがここにきて、思わぬところで供給に支障をきたしかねない情勢になってきた。米中貿易戦争である。

 7月6日、トランプ米大統領が中国の知的財産権侵害に対する報復の第1弾として340億ドル分の対中輸入品に対して25%の追加関税を発動したのに対し、習近平政権はただちに同額の対米輸入品に同率の報復関税をかけた。報復品目には農産物が多く、大豆やトウモロコシが代表的だが、よほど品目探しに苦労したのか、鶏の足や豚の内臓まで加えた。いずれも米国内ではほとんど消費者に見向きもされずに、廃棄されていたのだが、巨大な中国需要に合わせて輸出されるようになった。習政権は、屑に値がついて、ほくほく顔だった米国の養鶏農家に打撃を与え、養鶏地帯を選挙地盤とするトランプ支持の米共和党議員への政治的メッセージになると踏んで、報復リストに加えたのだろうが、国民の胃袋も直撃される。

 どのくらいの量の鶏足が米国から対中輸出されているのかは不明だが、国連食料・農業機構(FAO)統計(2016年)では鶏の飼育数は中国の50億羽に対し、米国は20億羽に上る。そのうち約1割の足が中国向けだとすると、約4億本が中国人の胃袋におさまる。それに対して高関税が適用されると、輸入が減り、かなりの品不足に陥る。13億羽の鶏を生産するブラジルが代替源になるかもしれないが、増産態勢が整うまでには長い時間がかかるはずだ。すると、需給の法則で鶏足の値が上がることになる。中国人全体の食にもっと広汎で深刻な影響が及びそうなのは、もちろん大豆である。米国の対中大豆輸出量は昨年3300万トンで、同5000万トンを超えるブラジルに次ぐが、中国の国内生産は1400万トンに過ぎない。米国産は中国の大豆総需要のうち、約3割を占める。輸入大豆は搾って食用油になり、粕が豚や鶏の餌になる。米国の大豆産地が鶏と同様、中西部のトランプ支持基盤とはいえ、その輸入制限は、胃袋と家計を直撃する。

 折も折、中国経済は減速局面に突入し、上海株価の急落が続く。トランプ政権は10日には2000億ドルに上る追加制裁品目を発表した。中国の対米輸入1600億ドルを大きく上回り、報復しようとすれば対米輸入全品目を対象にするしかなくなる。7月17日付の産経新聞朝刊によれば、中国の国営メディアは習氏への個人崇拝批判を示唆、習氏の名前を冠した思想教育も突然中止されるなどの異変が相次いでいるという。米国との貿易戦争に伴って景気悪化で所得が下がるうえに、胃袋も満たせないと大衆の不満は募る。そこで独裁権力を強める習氏への党内の批判が噴出する気配だ。
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